1077人が本棚に入れています
本棚に追加
~副会長(澪)side~
「なんてことがあったから、まさかこのタイミングで司と再会できるとは思わなくて取り乱したというわけだ」
会長から聞いた話は私が想像したこともない会長の姿だった。私がこの人を知った時には志藤家の跡取りとしての自覚を持っていたし、自分が与える影響力というのも認識していた。だからそんなことを考えていた時期があったとは驚きだ。
「会長にもそんな可愛らしい時があったんですね……それが今では……」
「今では、何だよ?」
「いえ、なんでもありません。で?本村くんの方は会長のこと覚えてたんですか?」
「覚えてるわけないだろう……俺もあの頃とはだいぶ違うし、何より十年以上前の話だ。俺にとっては印象的な出来事でも司にとってはなんてことのない出来事だろうしな……」
会長のこんな姿は初めてで会長も人の子だったんだなと改めて思った。それを会長に伝えると「お前は俺をなんだと思ってるんだ」と言われてしまったが普段の様子を知っているだけにそう思っても仕方ないだろう。
「まっ、俺の話なんてこんなところだ。面白くもなんともないだろう?」
「いえ、とても興味深い話でしたよ?これからはこの話を盾に会長に仕事をしてもらえますしね」
「お前こそ人の子じゃないだろう……」
なんて話をしながら誤魔化したが、実際の心の中はそれどころではなかった。私は両親に抱きしめてもらったことも、話を聞いてもらったこともない。
きっとこれからもそんなことが起こるなんて奇跡は私の人生において絶対に有りはしないのだ。
今更、そんな夢を見ようとは思わないがそれでも考えてしまうのは私がまだ弱いからなのだろう。
もっと強くならなければ……どんなことがあっても動じない私にならなければいけないのだ。
最初のコメントを投稿しよう!