1044人が本棚に入れています
本棚に追加
/255ページ
「さて、せっかくの水族館なんだしここでこのままってのも勿体ない。でもお前を1人にするのも不安だから俺がエスコートするよ」
「え、エスコート!?」
「お手をどうぞ。お姫様?」
「ちょっ、霧さん!!」
霧さんは私が座っている前に跪き、手のひらをそっと差し出してきた。こんな人がたくさんいる場所でそんなことをしたら視線を集めるのは当然のことでこっちに気づいた子どもたちが「なにあれ!」や「変なの!」といった声を出している。
霧さんにも聞こえてるはずなのに一向に止めようとはしないため仕方なく手を取ってその手を引きながら慌てて離れた。
手を引かれながら霧さんが笑ってる気配がしたが私は恥ずかしすぎてしばらく顔を上げることができなかった。
「まったく……何考えてるんですか!?」
「初めての水族館を思い出に残してやりたくて?」
「こんな思い出いりません!!」
明らかに思い出の残し方を間違えている霧さんに文句を言って手を離そうとしたが逆にしっかり握られてしまい離れない。
「あの、手を……!」
「お前迷子になりそうだしこのままでいいじゃん」
「子どもではないんですから迷子になんてなりませんよ!」
この人は私のことを何歳だと思っているのだろうか。迷子防止なら早く手を離してほしい。そんな思いを込めながら霧さんを見つめると急に手を引かれ繋いでいた私の手と霧さんの唇が触れ合った。
「じゃあ撤回。俺が繋ぎたいからこのままでいて」
「……っ!!な、なに!」
「それならいいか?」
「っわ、わかりましたからそこで喋らないでください!!」
霧さんが喋る度に吐息が手にあたり変な気持ちになる。こそばゆくて落ち着かない。
私の返事を聞いた霧さんは満足したのか手を繋いだまま歩き出した。
最初のコメントを投稿しよう!