第2章

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そうかもしれない。いつだって諦めていたのは自分自身なんだ。今までだってきっと、あったはずチャンスを無いものとして扱ってきたのは自分…… そんなことにも気づけないなんて、なんてダメな人間なんだろう…… 「……ふっ。気付けたなら何も遅くないぞ。これから始めたっていいんだよ。とにかくまずお前がやるのはY駅に行くことだな。」 「あの、一つ聞いてもいいですか?」 「なんだ?」 「なんで初対面の私にここまでしてくれるんですか?」 「意味なんてないけど、強いて言うならお前が弟に似てたから……かな。強がってるところなんてそっくりだ。だから礼なんて言うなよ?俺の勝手でここまでしただけだから。それじゃあな」 それだけ言い残すと男はそっと去っていった。本当にお礼を言わせてくれなかった…… けれど何もしないのも落ち着かず遠ざかる背中にそっとお辞儀をすると、私も男が買ってくれた切符をしっかりと握り、改札口を通って教えてもらった2番線へと降りていった。 (そういえばお金……払い忘れてしまったな) ホームで電車を待つ間、ふとそんなことを思ってしまった。あの場でお金を渡しても受け取ってもらえなかっただろうけど借りっぱなしになるのは嫌だった…… もしまたどこかで会うことができたらその時には切符代を渡して、後はお礼も言いたいなぁ。 きっと今日みたいに「いらない」って言われそうだけど …… お金とお礼のことで頭がいっぱいだった私は、男の名前を聞くという思考にまでいくことはできなかった。
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