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少し……いや、俺はかなり期待していた。
今年のバレンタインデーはもしかしたらもしかするかもって。好きなやつに本命チョコレートをもらえるかもって。
……でも、その俺の期待はあっさり崩された。
朝、学校に着くと、前の席の高梨がいつものように俺の方を振り向き、挨拶をしてきた。俺も爽やかに挨拶を返すけれど、バレンタインデーな今日も変わらず声をかけてくれたというそれだけで頭の中はさらなる期待が高まり、緩みそうになる頬を必死にこらえさせる。
つまり、高梨は俺の好きな女だ。今日もこいつの笑顔は全力でかわいい。
「ねえねえ、堺~」
「ん、なに」
「あたしね、今年は勇気を出して好きな人にチョコレート渡そうと思ってるんだ」
「は?」
「どのタイミングでチョコレート渡せば成功するかなぁ? 堺、アドバイスくれない?」
キラキラと澄んだ高梨の大きな瞳が俺を捕らえる。天然の上目遣いがものっすごくかわいいけど、期待を胸いっぱいに膨らませていた俺をどん底に落とすような高梨からの質問に、俺は心の中で眉間に思いっきりシワを寄せた。
そして、心の中で叫ぶ。
告白に成功する方法? 知らねーよ、そんなの! なんで俺が好きなやつの恋愛相談に乗らなきゃいけないんだよ!? 意味わからん!
……と思っても、高梨の笑顔に怒鳴ることもできず、俺は平静を装って相談に乗るふりをする。
「そいつ部活やってんの?」
「あっ、うん。やってるよ」
「じゃあ、部活帰りにでも渡したら? 疲れてるときに甘いもんもらったら、喜ぶんじゃね?」
「あーなるほど、そうだね! じゃあ、そうする。堺、ありがと!」
「……いいえ」
少しでも先伸ばしにしようと適当に答えたのに、高梨は頬を染めた満面の笑みで俺に感謝の気持ちを伝え、前を向いてしまった。通学バッグから中身を出しながら、俺は高梨がクラスメートに笑顔を向けながら挨拶する光景を後ろから眺める。
……なんだよ。こんな日に失恋かよ。ため息しか出ねぇ。いや、涙はめちゃくちゃ出そうなんだけど! っていうか、この状況、誰からもチョコをもらえないことより空しいんじゃね!?
俺は机におでこをぶつけるようにして、突っ伏す。後ろの席のダチから「サカちゃん、どした! 生きてるか?」という声とともに俺の背中をシャーペンの鋭い方で突っつく感触があるけど、構っている余裕なんかなかった。
……マジで泣きたい。
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