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「アンタ確か、好きだったでしょ?」
クスクスと笑いながら、彼女が俺の顔を覗き込む。
先程初めて遥の事を女として意識してしまった俺は、あまりにも無防備で、あまりにも無邪気な言動に、またしてもかなり動揺してしまった。
吸い込まれそうなほど綺麗なその瞳に見惚れ...そして、ごくりと生唾を飲み込んだ。
その瞬間彼女は思いっきり吹き出し、そのまま腹を抱えて爆笑した。
「ヨダレが出るほど、好きなの?
良かった、チョコレートじゃなくお煎餅にして。」
確かに、チョコとか甘いもんは苦手だし、煎餅の方が好きだ。
...でも、ちげーよ。
くそっ...こいつってば、こんなに可愛かったっけ?
てか俺...まさか、遥の事が...。
無駄に意味深な彼女の言動により、気付かされた想い。
冗談じゃない。でも...。
「好きだよ。」
自分ですらも知らなかった気持ちを込め、告げた。
彼女の頬が、一瞬の内に朱に染まる。
「...煎餅の話、な!」
それを横目で盗み見てニヤリと笑い、ハート型のそれにかぶり付いた。
「紛らわしい...、そういうの良くないと思う。」
遥は唇を少し尖らせてそう言うと、鞄を手に取った。
それから彼女はいつもの笑顔で、また明日、とだけ言うと、待たせていた友達の方に向かい、駆け出した。
「...紛らわしいのは、どっちだよ。
バーカ。」
そんな遥の後ろ姿を見送り、俺は一人、残った煎餅を手にポツリと呟いた。
【....fin】
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