第1章

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 思わぬところに話がきたなと思った。千秋さんの時は三角関係だったし、この次は宇宙人でも出てくるかもしれない。でも、僕はもう何がきても驚かないだろう。だから、そこのところは適当に話を合わせてなるべく刺激しないようにしようと思った。 「そういう人って確かにいるよな。で、何て言ってたの?青葉ちゃんは」 「うん。ホントはね、北海道に来るのを迷っていたんだ。けど、青葉が、行けばきっといいことがあるから絶対行った方がいいって。お姉ちゃん、もういいんだよって・・・」  そう言うと千賀子はドキッとするほど真剣な目で僕を見つめた。しばらく見つめ合ったまま沈黙した。前回の経験からしても、こんな時はヤバイんだ。だから何んでもいいから早く何か別のとぼけた話題ではぐらかした方がいい。何でもいい、早く、早くと僕はあせった。 「何?どうした?僕の顔にゴキブリでもとまってる?」  とっさに出てきたのは、よりによって女の子に最も嫌われそうなお下品なネタだった。案の定千賀子は目を丸くした。僕の背筋に冷たいものが走り、後悔の津波がザーッと襲ってきては、サーッと引いていくものを感じた。しかし、やがて千賀子はプッと吹き出して、僕の肩を叩きながら言った。 「もうー、何ばかなこと言ってんのよ。いくらなんでもそんな訳ないじゃない」  千賀子はケタケタと明るく笑った。  彼女はよく笑う。最初の印象とはまるで別人だ。  でも、やっぱりこうして明るく笑う千賀子の方がいい。  朝起きてからいろいろと準備があった。  先ずは例によってヘルメットを調達しなければならない。今日はこのユースには泊まらないので、ここで借りることはできない。だから、どこか近くの店で買うことになるのだが、ここは思い切って、高くてもいいヘルメットを買いたかった。
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