第1章

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 僕らは50の原付時代から何度も転倒した。その度に最低限しっかりしたヘルメットを被ることの大切さを学んだ。ざっくりと大きな傷の付いたヘルメットを見たとき、「これがもしノーヘルだったら・・・」と身の縮む思いがした。自分の身は自分で守らないといけないのだ。もしもの場合に“待った”はない。それに「自分は運転がうまいから事故なんておこさないしありえない」などということは妄想にすぎない。その瞬間はいつどのようなかたちで襲ってくるか分からないものだ。だから、千賀子にもしっかりとしたヘルメットを被らせてあげたかった。僕の経済には大打撃だが、もう覚悟を決めた。しかし、さしあたって先立つモノがないので、訳を話して友紀に借りようと思った。  朝食前、顔を洗って一服している友紀に、全てを話して借金の申し込みと、今日の予定の変更を頼んだ。友紀はニヤニヤしながら、 「いいよ。いくらいる?」と、簡単に応じてくれた。 「2~3万もあれば買えるんじゃないかな」 「じゃ、5万貸してやるよ。俺は別に使わないから」 「いいよ、3万くらいで。それくらいじゃないと返すのがきつくなるから」 「いいから、借りとけ。今日、俺たちはおまえとは別行動するから、もしものトキはお金かかるぞー」 「何だよ、もしものトキって」 「フッフッフッ、まあそれはいいけどさ」 「変な奴。でも貸してくれるならいい奴だよ。すまん。帰ったら何とかしてすぐ返すから、3万、頼む」 「いいよ。5万で」  こうなったら友紀も頑固だ。全くの善意のつもりだろうから、この場合は友紀の言うとおりにした方がいいかも知れない。 「それに、なァ貴志。返すのは来年お前が大学にでも行ってからでいいよ。慌てて返さなくていいからな」 「はァ・・・?」 「いや、俺は正直言っておまえをツーリングに誘ったのはまずかったかなって思っているんだ」 「何で?」 「だって、おまえは一応浪人だろう?受験があるじゃないか。本来なら夏の大事な時期に遊んでいていいはずがないだろ?」  そういうふうに僕は見られていたのか。周りはそんなふうに僕のことを心配してくれているのに、僕はなんてのんびり構えていたことか。我ことながら、恥ずかしくなった。 「とにかく、来年大学にでも行って、バイトでもして、それから返してくれればいいよ。帰ったら、おまえはいらんこと心配せずにちゃんと勉強しろよ」
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