第1章

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 そこまで言ってくれる友紀に、僕はもう何も言い返せなかった。ありがたく、5万円をお借りすることにした。  朝食の時、改めて千賀子を二人に紹介した。二人とも、相変わらずニヤニヤしている(と僕は感じたが、千賀子にはふつうの笑顔にしか見えなかったそうだ)。  食後に、千賀子とふたりで打ち合わせをした。とりあえずヘルメットを売っていそうな店は10時くらいしか開かないだろうから、千賀子は元々の予定通り列車で美瑛の駅まで行く。僕は途中、ヘルメットを買って美瑛の駅に行く。そこで合流して丘めぐりをしようと決めた。 「貴志くんのと同じヘルメットがいいな」と、千賀子は笑いながら言った。  僕のヘルメットというのは、当時最も人気のあったライダーのレプリカヘルメットで、白をベースに赤と黒のラインが入っている。まあ、ポピュラーなヘルメットなのですぐに手に入るだろう。  打ち合わせが終わると、「じゃあ、私先に行っているからね」と言って千賀子は自分の部屋に引きあげていった。僕はユースの人に聞いてヘルメットを売っている店を教えてもらった。そして、荷物をなるべく少なくするために、友紀と伸彦に頼んで手分けして持って行ってもらうことにしたので荷造りが大変だった。それに、地図も持っていないので、友紀が持っている地図帳を書き写した。千賀子のおかげで本当に朝から大忙しだ。でも、相当気合いが入っていたらしく、伸彦に、「恋する男は違うな」とからかわれた。まさにその通りだった。不思議なくらい僕はウキウキしていて、気分もノッていた。  今日は結局三人とも別行動しようということに決まり、僕ら3人の集合場所も打ち合わせて決めた。前にも行った富良野の鳥沼キャンプ場だ。そこに今夜は泊まる。もしものトキは友紀の実家を連絡先にしようということも決めた。僕が、「何だよ、もしものトキって」と言うと、友紀と伸彦が大笑いした。 第七章 風の吹く丘で  それでも、朝9時半頃には出発できた。  友紀と伸彦は10時頃出発するそうで、相変わらず例のニヤニヤ笑いを浮かべ、「まあ、がんばれよ」と見送ってくれた。僕はもう、どうでもよくなったので景気づけに大きくガッツポーズをして走り始めた。  20分も走ったところに、ユースの人に教えてもらったカー用品店があった。開店までまだしばらく時間がある。僕はその店の前にバイクを停めてしばらく待つことにした。
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