第1章

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 今日はとてもいい天気で暖かい。のんびりとした雲が、抜けるような青空に浮かんでいる。絶好のツーリング日和だ。千賀子と一緒にいられるし、それに昔から憧れていた風景に出会えるだろうと思うと、言葉にはできないくらいの嬉しさがこみあげてくる。 「これが、幸せっていうのかな」 だとすれば、幸せというのは心の持ち方ひとつなんだなと思った。客観的に見ると、見知らぬ土地で仲間と別行動するのはリスクがあるし、ヘルメットを買うために借金もした。荷物も友紀と伸彦に預けたので二人には随分迷惑をかけている。この埋め合わせはいつかしないといけない。それでも、僕は本当に幸せな気分だった。どんなリスクでも蹴散らしていけそうな気がした。  こんな気持ちになれるのは、随分久しぶりのような気がする。  店が開いた。  バイク用品コーナーに行った。  棚にヘルメットがずらっと並んでいた。けっこうな数の品揃えだったのだが、僕のと同じデザインのメットはなかった。在庫にでもないものかと思って店員に聞いてみたが、今品切れ中だという。千賀子が怒るかなと思ったが、ないものは仕方ないので、僕のと同じ型の白いメットを買った。夏場は色の濃いメットよりも白いメットの方が日光を反射するため暑くないのだ。ついでに、千賀子のグローブも買っておこう。なにしろカムイワッカで転んだ時はグローブに随分助けられたし、千賀子に素手のまま走らせたくない。急いで買い物を済ませ、僕は美瑛の駅目指して走り始めた。  美瑛に近づくにつれてなだらかな、美しい丘陵の風景がひろがってきた。「ああ、確かにこんなイメージだ」と思った。北海道に来る前にちらっと立ち読みした案内本には富良野のことしか載ってなくて、美瑛のことを全く知らなかった。前回富良野に来た時もこの道は走っていない。千賀子のおかげで今日はいい日になりそうだ。  美瑛の駅に着いたのは11時ちょっと前だった。  千賀子は木陰のベンチに腰をおろして何か本を読んでいた。バイクの音に気づいて立ち上がり、僕を見つけて笑顔で手を振った。  あれ?何かイメージが違う。と思ったが、とりあえず適当なところにバイクを停めていると千賀子が歩いて来て言った。 「けっこう早かったね。もう少し待たされるかと思った」 「店もすぐ見つかったし、道も混んでなかったから」
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