第1章

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「それにしても今日はホントにいい天気だね。絶好の丘めぐり日和だよ、たぶん。」  そう言って千賀子が空を見上げた時に気がついた。長い髪を後ろで束ねているんだ。それに、ジーパンに白いTシャツ姿で、赤いウインドブレーカーを腰に巻いている。今までとはまるで違う服装だ。それで、どこかイメージが違うと感じたんだろう。僕はメットを脱ぎながら言った。 「何だか、いっぱしのバイク乗りみたいな格好だな」 「へへー、昔はね、よくバイクに乗せてもらっていたんだよ、これでも。それに、この上着は青葉が絶対持って行けって言ったんだよ」  そう言ってにこにこと笑った。  つまり、昔の彼氏に乗せてもらっていたということか。ふーん。まあ、別にいいけど。そう言えば、初めて話したこともバイクの話題だったような気がする。 「ねえ、私のメットは?」 「ああ、それなんだけど、ごめん同じデザインのがなくて型は同じなんだけど、これ」  僕はメットホルダーから白いメットを外して千賀子に渡そうとした。 「えー、同じのなかったの?」 「うん。ちょうど品切れしてて。ごめん」 「私、同じのがよかったなー」 「ごめんよ」 「じゃ、私貴志くんのを被る」  千賀子はそう言うと、ミラーにかけていた僕のメットを手にとった。 「いや、それ古いし、汚いし、やめた方がいいと思うよ」 「ぜんぜんそんなことないよ。ねえ、いいでしょう?」  そう言って千賀子はさっさと被り、自分のメット姿をバックミラーで見ながら無邪気に笑っている。僕は千賀子の笑顔には弱いんだ。 「うーん、そう言うなら別にいいけど・・・」  ということで、千賀子が僕のメットを、僕が白いメットを被ることになった。こんなことなら、格下の安いメットでも買えばよかったなと内心思った。 「あ、それから、これ、千賀子のグローブ」  新品のグローブを千賀子に渡した。まさかこれまで文句言われたらさすがにショックだなと思っていると、千賀子はにこにこしながら、 「これも私の?ありがとう」  そう言って素直に受け取った。 「さて、じゃあ出発しよう。千賀子の荷物は?」 「さっき駅のコインロッカーに入れたの。持っていくのはあのベンチに置いているバックパックだけ。富良野に行く前に取りに来ればいいかなと思って」 「あ、なるほど。じゃあ俺もそうしようかな」
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