第1章

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 リアカウルにくくりつけていたバッグを外し、僕もコインロッカーに預けに行った。バイクに戻ってみると、僕のバイクのナンバープレートを見ていた千賀子が目を丸くして僕に聞いてきた。 「何で、このバイクのナンバープレートはピンク色しているの?」 「ああ、これ125ccだからね。125はピンクナンバーなんだ」 「ふーん、小さなバイクなんだね」 「ハハハ、俺、免許は中免だけど、プーだからね。経済的な理由だよ。いま大きいの買うって言っても親に反対されるし。でも、これでも高2の時必死でバイトして買ったんだぜ、中古だったけど」 「ごめん。別にばかにしている訳じゃないのよ。ただ、小さいバイクなんだなって思って」 「フォローになってねー」 「もうー、ごめん!」  千賀子はケタケタと明るく笑っていた。そんな千賀子の笑顔が僕は好きだ。千賀子が笑ってくれるなら僕のことなんて、もうどうでもいい。 「あのね、貴志くん。駅に美瑛の見所の案内図が置いてあったの。私待っている間にそれを読んでいたから、道順は私が指示するね。それでいい?」 「ああ。頼むよ。じゃ、出発しよう。昔乗ったことがあるなら要領はわかるよな」 「うん。ぜーったい落ちないようにしがみついているから」 「ああ、でももっと楽に乗った方がいいと思うよ、片手で後ろのグラブバーを握って、片手は僕の腰か、間のベルトでも掴んでいればいいから」 「そう?バイクってしがみつくものなんじゃないの?」  やれやれ、格好は一人前だけど、千賀子はどれくらいまでなら大丈夫なんだろう。それが分かるまではゆっくり走った方がよさそうだ。  僕は先にリアステップを引き出してバイクに跨った。キックでエンジンを目覚めさせ千賀子に「乗っていいよ」と言った。千賀子はひらりとリアシートに乗った。その様子はずいぶん様になっている。「ああこれならまあ大丈夫だろう」と思ったが、さしあたって優しくバイクをスタートさせた。  しばらく走ると後ろで千賀子が何か言っている。道順の指示かなと思ってもう一度聞いてみた。 「貴志くん、運転うまいね」  千賀子はそう言った。風切り音とエンジンの騒音に負けないような大声で僕は聞き返した。 「はァ?何で?」 「何ていうか、うまい具合にスピードが乗っていくのね」
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