第1章

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 中学時代の僕は、野球部に入っていて丸刈りの坊主頭。おまけに日焼けで真っ黒だった。僕は、森崎のことが好きだったので、彼女の前で妙にカッコつけたり、笑わせたり、そして、ちょっとだけいじわるしたことも憶えている。だけど、肝心なことは言い出せなくて、そのまま卒業した。  ファミレスで再会した森崎は、きれいになっていた。  地元の短大に進学したという。女友達と3人で来ていた。  僕は、これは神様がくれた最後のチャンスだと思った。  僕の仲間も、森崎の友達も無視して、彼女をファミレス入口の、電話の置いてある風除室に連れていった。そして、一度二人で会ってくれないか?と頼んだ。あまりにも唐突だったが、森崎は以外にあっさりと「いいよ」とOKしてくれた。  僕は天にも昇る気持ちで席に戻った。  バイク仲間のみんなから冷やかされた。  3つ向こうのボックス席に戻った森崎も、友達から冷やかされていた。その会話がおぼろげながら僕の耳にも届いた。 「森崎ィ今のだあれ?」 「ただの友達よ。中学時代の」  そうか、僕は“ただの友達”なんだ。  それは、確かにそうだ・・・。周りで騒ぐバイク仲間の雑音をシャッタアウトして森崎たちの会話に耳をそばだてた。 「そうよねぇ、森崎にはあんなに優しい年上のカレがいるんだから」 「もう、やめてよ」  森崎は笑った。  僕は笑えなかった。  というか、ひきつった。じゃあ、何故OKなんだ?あの笑顔は何?と心の中で何度も繰り返した。  やがて、秋の気配が深まる頃、僕と森崎は、けやき通りの小さな喫茶店で会うことになった。  けやき通りは、その名とおり、けやきの木が、車道と歩道を隔てるようにどこまでも続いていて、福岡の中でも秋が似合う街だ。紅葉した紅やオレンジ色のけやきの葉っぱと、濃いチョコレート色の幹が見事なコントラストをなして、レンガづくりの歩道に覆いかぶさるように並んでいる。  僕は約束の時間通りにやってきた。  店内をのぞいてみると、森崎は先に来ていて、僕を見つけるなり、笑顔で手を振った。 その笑顔につられるように、僕は森崎の側に行った。 「もう、ずいぶん寒くなったね」と彼女は言った。僕は、「ああ」と言って、彼女の前に座り、アメリカンコーヒーを注文した。森崎は既に紅茶を注文していた。  僕らは中学時代の思い出話とか、何気ない世間話をした。
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