第1章

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 僕はここで初めて気がついた。実は僕も車の免許を持っている。だから今日はひょっとしてバイクではなくレンタカーの方が良かったのかも知れない。千秋さん達の時はバイクに乗りたいっていうことだったけど、千賀子の場合、別にバイクで、ってことじゃなかった。だから、今更という気もしたのだが聞いてみた。 「あのさ、今日は車でも良かったんだよな。今気がついたけど・・・」 「レンタカー?」 「ああ。その方が楽だったんじゃないか?」 「うーん、でもね、そんなことないよ。私バイク好きだし」 「遠慮しなくてもいいよ。今からでも借りようか?」 「遠慮じゃないよ。気にしないで。バイクの方が景色が広く見えるからバイクがいいの。ホントだよ。今日は天気もいいし」  そう言うと、千賀子は笑った。僕も、それ以上言わなかった。  僕らは次の目標であるセブンスターの木に向かった。  その木も、一本だけ畑の中に立っていて、傘のような形の大きな枝葉をのせている。バイクで近くまで来た時、 「貴志くんが見たいって言っていたのはこの木のこと?」と、千賀子が聞いてきた。 「いや、違うよ。一本の木じゃなくて林みたいになってるんだ」 「あ、分かった。それは、マイルドセブンの方だね。次の次がそうだよ。じゃ、さっさと移動しよう」  ここではバイクを降りずに、次の目標へ移動した。次は親子の木の丘だそうだ。  途中の道からは丘陵の美しい風景を見渡すことができた。千賀子が言うように、こんな天気のいい日にはバイクで走った方が気持ちいい。日差しは暑いけど、風はさわやかだ。  その木はちょっとした丘陵の頂上近くにあって、形はセブンスターの木と似ているが、そのうちの一本はてっぺんの葉が寝癖のついた髪のようにとんがっている。なかなか愛嬌のある形をしていた。「これが親子ならどれがお父さんでお母さんなんだろうね」と千賀子が言っていた。僕も面白がって適当な話で応えた。  そして、僕にとっては念願のマイルドセブンの丘にやってきた。丘の上にある林を見つけてからというもの、歓声をあげながら遠回りに廻っていろんな方向から眺めた。周辺には草原があったり、白い花をつけた畑があったり、それに小刻みに波打つような地形だったので、見る場所によって様々な表情があった。  やがて適当なところにバイクを停めた。  僕はすっかり興奮して千賀子に言った。
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