第1章

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「やっぱりここだよ。この風景に憧れていたんだ。CMでは雪景色だったけどね、俺のイメージの中では夏草の風景に化けていたから、ちょうどこんな感じなんだよな」  そういう僕の笑顔を見つめていた千賀子が、 「よかったね、見ることができて」と、笑顔なのだが妙に冷静な口調で言った。  あれ、僕はちょっとはしゃぎ過ぎたかな、千賀子に何か不愉快な気分を押しつけたかなと思った。僕の顔を見つめて何か言いたげにしていた千賀子は、やがてプイっと反対方向に振り向いてゆっくりと歩き出した。後ろ手にしながら周りの草をみつめるようにゆっくりと歩いていった。僕は状況が理解できずに千賀子の後ろ姿を見つめ、ただぼんやりと突っ立っていた。千秋さんの時の経験からしても、ワケあり少女のこんな時はヤバイという気がした。だからただ黙ったまま千賀子の様子を伺っていた。千賀子は草むらにしゃがみこんで、意味があるようなないような手つきで草をいじっていた。僕は黙ったまま千賀子の側に行った。 「あのね、貴志くん・・・」と、千賀子がポツリと言い出した。 「私にはね・・・」  そこまで言って、千賀子は黙ってしまった。何か考ているようだ。僕も突っ立ったまま黙ってしまった。やがて千賀子は何かふっ切れたかのように顔をあげ、 「ごめん。なんでもないよ。変だね、私」 「別に。誰だって考えこんでしまうことはあるさ。でも俺は千賀子のこと好きだから、何があってもずっと一緒にいたいって思ってる」  あ、思わず言ってしまった。  千賀子は後ろ向きにしゃがんだまま聞いていた。  言ってしまったことが吉とでるか凶とでるかは分からなかったが、こうなったら何があっても前に突き進むしかないと思った。 「フェリーの待合室ですれ違った時から好きだったよ」  千賀子はしゃがんだまま何かもぞもぞとしている。あれ、泣いているのか?後からだとよく分からないが、そんな感じだ。  しばらく経ってから千賀子はパッと立ち上がり、 「貴志、お前運転遅いぞ、もっとスピード出せよ」  まぶしいくらいの笑顔を見せて、そう言った。  いつの間にか呼び捨てになってる。しかも命令調だ。でもまあいいや。千賀子が元気になったことだし、好きだって言ってしまった方が負けなのだから。僕も千賀子の笑顔が嬉しくて顔をほころばせながら、 「わかったわかった。じゃあこれからは飛ばすよ」と言った。
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