第1章

114/135
前へ
/135ページ
次へ
 それから僕は千賀子の希望通りスピードを出した。  僕のバイクは一気に2速おとせば爆発的に加速する。冷静に見るとやはり125でしかないので速度の絶対値は遅いはずだが、フロントを浮かせエンジンがうなり爆煙をまき散らしながら加速するその体感速度は125の華奢なボディと相まって恐ろしく速く感じる。千賀子に「怖くないか」と聞くと、「大丈夫」とか言いながらはしゃいでいたので遠慮なくガンガン飛ばして行った。  時間はもう1時に近かったので、美瑛の町で適当なレストランに入った。  ちょっと遅めの昼食のあと、これからの予定を相談した。  千賀子の希望では、途中の展望台で一休みしてそれから麓郷には行きたいということだった。もう、たくさんの観光地に行けるような時間もないし、そう決めると早々と店を出た。 美瑛の駅に戻り、コインロッカーに預けていた荷物を引き取った。 二人分の荷物をなんとかリアカウルに括りつけようとしたのだが、リアカウルは狭いので、どうしてもグラブバーをまたいでリアシートにかかってしまう。仕方がないので、その状態で富良野の駅まで走ることにした。富良野でまたコインロッカーに預ければいい。それまでの辛抱だ。    千賀子のいう展望台は美瑛から富良野方向の美馬牛という町にあるらしい。そこまでの道は少し高台にあって見晴らしが良かった。どこまでも続く丘陵の風景が走りながら遠くまで見渡せた。千賀子は辺りをキョロキョロと眺めては「ホントきれいだねー」と連発していた。 「やっぱりバイクで良かったよ。車だったらこんなに太陽の光も風の感じも草の匂いもわからなかったはずだよ」 バイク乗り泣かせのセリフだ。僕は嬉しくなった。だから、ちょっとサービスしてやろうと思った。めぼしい道を見つけていたので、「ちょっと寄り道するぞ」と言って進路を変えた。  そのめぼしい道というのは、真っ直ぐな道が急な丘の斜面を駆け登っていて、ぷっつりと消えている。つまりその先は、開陽台へ行く道のように、下り坂になっているはずだ。  登りの手前でバイクを停めて、千賀子に言った。 「今からこの坂を全力で走るから、合図したら、ニーグリップ、つまり膝でしっかり挟み込んで、手を離すんだ。両手を広げて、そう、こんな感じで」
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加