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止めどもなく溢れ出るその涙を隠そうと、千賀子は両手で顔を覆い、うつむいた。嗚咽の声が、僕の心に響いた。
それが、時々見せる千賀子の“ワケあり少女”の原因なのだ。
無理もない。この小さな体で、まだ20にもなっていないのに、あまりにも重たすぎる現実だ。
淳君はもともと心臓に持病があった。でも日頃はそんな素振りも見せない活発な男の子だったらしく、亡くなるまで千賀子も知らなかったそうだ。
高校2年の初雪の舞い落ちる、とある冬の晩に、普段どおりに眠りについたまま、二度と目を覚ますことはなかったという。
「青葉がね、言うの。お兄ちゃんが夢の中でお別れにきたよって。ごめんなって。ずっと見守っているから幸せになってくれって。でもね、私の夢の中には来てくれないし、どうしたらいいの?私は・・・」
千賀子を励ます言葉をいくつも考えてみた。でも、どんな言葉も千賀子の抱える現実の前にはあまりにも虚ろなもののような気がして、僕は何も言い出せなかった。
僕は千賀子の隣に腰を下ろし、その細い肩を抱き寄せた。
目を真っ赤にして、時々ぐすんと鼻を鳴らすことしかできなかった。
丘の上には、ただ、風が吹いていた。
最終章 あの暑い夏の陽に
辺りは、すっかり暗くなっていた。
風も冷たく感じる。
ふたりは草の上に腰を下ろしたまま、ずいぶん時間がたつ。千賀子は落ち着いたようで、もう泣いてはいない。長いこと、ふたりとも沈黙していたが、小さな声で千賀子が言った。
「ねえ、貴志くん」
「うん?」
「あたたかいね、貴志くんは・・・」
「寒いから、いいだろ?あたたかいのが」
「うん。今風が寒いから人の温もりっていい感じ・・・」
「ああ」
「棺の中の淳はね、それはもう信じられないくらい冷たかったよ」
「千賀子・・・」
「あ、ごめん。でも、もう平気だよ。泣くだけ泣いたし、ここに来ることができて気持ちの整理もついたし」
そう言いながら千賀子は、驚くくらいの柔らかさで体をよじり僕の方に振り返って笑った。そして、再び背中を向けて座りこみ、僕にもたれかかってきた。
「今日は貴志くんが一緒にいてくれてよかった」
「何で?」
「ひとりでここに来てたら気が動転してどうなったかわからないよ、私」
「そうかな?」
「そうだよ、きっと。ここにひとりで来たらきっと泣いちゃうだろうなってずっと思ってたもん。ほんとうに泣いちゃったし」
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