第1章

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 ひとしきり話をした後で、僕は思いきって、中学の時から、実は森崎のこと、好きだった。と打ち明けた。  森崎は穏やかな笑顔で聞いていた。  僕はカッコ悪くても構わないからとにかく包み隠さず僕の気持ちを話した。やがて、森崎は言った。 「貴志くん、野球部のエースで4番だったから、女子にも人気だったよね。ホントはね、私も貴志くんのこと好きだったよ」  僕の心臓は破裂寸前になった。  森崎は笑顔のまま続けた。 「でもね・・・」 「今、わたしには他に好きな人がいるの」  僕の全身から、サーッと血の気が引いた。  それが、例の優しい年上のカレだということは見当がついた。だけど、そんなこと関係ないと思って、僕の森崎への思いを一方的に話し続けた。やがて森崎は言った。 「そこまで思っていてくれているなんて、思わなかったわ。だって貴志くん、時々ひどいいじわるだったもの」  いや、それは好意の裏返しなんだって言おうとした僕を遮るように、森崎は言った。 「彼はね、とても優しいの。なんていうか、いつでも見守ってくれているっていうか、なんでもわかっていてくれるっていうか。だから、彼のそばにいるとなんだか落ち着くの・・」  僕には、森崎が言っていることの意味が理解できなかった。理解しようともしていなかった。僕はこんなに森崎のこと、好きなのに、何で分かってくれないんだ!年上のおやじ(?)といて、何がそんなに楽しいんだ!としか思わなかった。しかし、どんなに僕が話しても、森崎は笑顔で聞いているだけだった。  とりつく島もない。  というのは、まさにこの事なんだろう。  やがて、僕らは店を出て、そのまま別かれた。別れ際、彼女は穏やかな笑顔のままで、「ごめんね、貴志くん・・・」と言った。    けやきの枯葉が舞い落ちる中、帰っていく彼女の姿がどんどん小さくなった。その後ろ姿は、僕にはなんだか力強く見えた。それは、まるで彼氏から与えられている幸せを物語っているような気がした。  彼女の心の中に、もう僕の居場所はないんだな。ということだけは理解できた。  思えば、こんなうっすらと寒い秋の夜、文化祭の準備で帰りが遅くなった時、僕は彼女をチャリンコの後ろに乗せて送って行ったことがある。その時二人は何も話さなかった。どうして、僕はあの時彼女に告白しなかったのだろう。あの時告白していれば、また違った展開になっていたろうに・・・
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