第1章

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「うん」 「やっぱりひとりよりふたりの方が心強いなあ」 「ああ」 「ね、貴志くん、これからもずっと一緒にいてくれる?」  いきなり千賀子は落ち着いた真剣な口調で聞いてきた。僕は質問の意味が分からずに瞬間迷った。現実に僕らの地元は九州と東京なのだ。でも、ここはきっぱりと了解の意志を伝えないといけない。現実はどうあれ、これは心の問題なのだ。千賀子の心の十字架をとりのぞくためにも、はっきり言った方がいいはずだ。 「さっき言っただろ。僕は千賀子のことが好きだから何があっても一緒にいたいって」 「泣き虫でわがままで甘えん坊だよ、私。それでもいい?」 「何回でも言うよ。俺は千賀子のことが好きだ。初めてすれ違った時から好きだったよ」 「ほんとう?」  僕は優しく、しかもきっぱりと言った。 「本当だ」  千賀子は僕の方に振り返り、笑顔で言った。 「じゃあ、指切りしよう」  思いがけない、子供のような申し出に僕まで笑顔になった。 「わかったわかった。はい小指ね」  差し出した僕の小指に、千賀子も小指をからめてきた。そしてふたりで声をあわせて歌った。 「ゆ~びきりげんまん、うそついたら針千本の~ます、指きった!」  指切りをしたあと、千賀子は急に真剣な眼差しで僕を見つめた。  しばらく見つめ合ったあと、僕らはどちらからともなく自然にキスした。  それから、僕らは富良野の駅に移動した。  僕もはじめて聞いたのだが、今晩、千賀子は札幌のホテルに予約を入れているそうだ。そして明日の午後には千歳空港から飛行機に乗って東京に帰るらしい。神戸の家族のところには帰らない予定だという。正直に言って、僕はちょっとがっかりした。“もしものトキ”なんてそうそうあるわけないものだ。  列車を待つ間、待合室のベンチに座って色々と話した。フェリーの待合室で、淳君とそっくりな僕を見て、心臓がとまりそうになるくらい衝撃を受けたという千賀子の話(その気持ちがおそらく僕には不思議な雰囲気だと感じられたのだろう)や、僕が初めて声をかけた時の千賀子の感想。そして僕は一日に一回は千賀子のことを思いだして名前も連絡先も聞き忘れたことを後悔していた話をした。  僕らは気が合うのか、ふたりで話しているととても楽しかった。さっきの約束じゃないけど、本当にずっと一緒にいたいと思った。ほんの少しでも長く一緒にいたかった。だから、聞いてみた。
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