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「俺も、札幌に行こうか?」
千賀子は穏やかな笑顔で聞き返した。
「どうして?」
「え?だってもう夜遅いから心配だし、さっき約束したじゃん。ずっと一緒にいるって」
すると千賀子はパッと、明るい笑顔を見せて言った。
「やだ、あんな約束本気にしないで。現実は現実でしょう?」
はァ?何それ?手のひらを返すように、なんちゅうことを千賀子は言うんだろう。僕の全身から血の気が引いた。ひょっとしたら僕は何か大きな勘違いをしているのかと思って、さっきの状況をもう一度思い返してみた。千賀子は続けて言った。
「というか、貴志くんはお友達が待っている訳でしょう?今から札幌に行ったら色々と大変だよ。それに、ね。今夜はちょっと一人でいたいの」
「うん?」
「今夜はね、淳に報告するの。好きな人ができたんだよ、私。って。その人はね、淳にそっくりなんだよって。そしてお願いするの。幸せになるから、ずっと見守っていてねって」
遠くを見つめるように千賀子はそう言って、僕に寄りそってきた。
どうやら僕の勘違いではなさそうだが、それにしても千賀子の心の中では今も淳君が生きているのだ。おそらく、淳君が亡くなってから一年半もの間、心の中で淳君と対話しながら生きてきたのだろう。それを僕が現れたからと言って急に忘れることなんて出来ないだろうな。
僕と千賀子の間には淳君がいて、妙な三角関係になりそうだと思った。でも、僕は不思議にも嫉妬とかそういった気持ちにはならなかった。相手は亡くなった人なのだし、千賀子の気持ちを大切にしたかった。
「あ、そうだ!」と言って千賀子は跳ね起きた。
「ねえ、貴志くんのヘルメット、私にちょうだい」
「え?何で?」
「実はね、あのデザインは同じなんだよ、淳のと」
「ああ、そうだったのか」
「ねえ、いいでしょう?」
「いいよ。でも持って帰るの、大変じゃないか?」
「ヘーキよ。ヘルメットのひとつくらい。札幌から郵送するし。あのデザインには色んな思い出があるし、貴志くんとの思い出も増えたことだし」
千賀子は笑っていた。
「わかった。じゃ、とってくるよ」と言って、僕はヘルメットをとりに行った。
間違いなく千賀子の心の中に僕の居場所もあるんだなと思うと嬉しくなった。
列車の来る時間が近づいたので僕らはホームにあがった。
僕はもう一度聞いた。
「札幌に着くのは随分遅くなるけど、本当に大丈夫か?怖くないか?」
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