第1章

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 駐車場からキャンプサイトの隅々までひととおり手分けして捜してみたが、やはり見あたらない。とりあえず、駐車場で待ってみることにした。バイクなのだから必ずここにくるはずだ。僕の顔を見て一安心したのか、やや落ち着いた様子の友紀がいきさつを話してくれた。  今日は3人とも別行動をしたのだが、友紀と伸彦は7時までにはここに集合しようと打ち合わせていたらしい。もし間に合わなければ必ず友紀の実家に連絡をいれようということも約束していた。なのに、7時になっても8時になっても伸彦は来なかった。友紀は、まあ、伸彦にも色々とあるだろうと思ってのんびりと構えていたそうだが、9時になってもやってこない。それで、さすがにこれはおかしいと思って、実家に電話してみたが何も連絡はないという。この暗さでテントの位置がわからないのかもと思って場内をまわっている時に、ちょうど僕に出会ったそうだ。 「今日の場合、貴志が帰ってこなくても別に心配はしなかったけどな」  と、友紀が笑いながら冗談を言った。さっきまで本当に真剣な顔をしていたのだが、やっと笑う余裕が出たのだろう。千賀子の言うように、一人より二人の方が心強いものだ。 「あのさ、伸彦はもうひとつのテントを持って行っていたかな」と、僕は聞いた。 「ああ。持っているよ」 「何かの都合で電話もないような別のところでテント張っているのかもよ」 「う~ん、それはないだろうな。それなら、なおさら何とかして連絡くらいするだろ、ふつう・・・」  連絡もせずに一人で舞鶴まで走った僕としては耳が痛い話だ。でも、あの時の経験に懲りたから今回はちゃんと連絡先を決めていたので、ふつうの状態だったら確かに連絡くらいするだろう。ということは、やはりふつうの状態ではないということか?僕は血の気が引くような緊張を感じた。 「とにかく俺はもう一度実家に電話してくる。貴志はここで待っていてくれないか?」 「わかった」  友紀は公衆電話に向かった。例の自販機のところにあるので随分遠い。  友紀の背中を見送ったあと、僕は星空を見上げてみた。今夜も星がきれいだ。満天の星空と静寂の世界の中で僕は一人になった。
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