第1章

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 美瑛から富良野周辺を走っていた信彦は、とあるおもしろそうな林道を見つけた。もう夕暮れ時だったのだが、ちょっとくらいならいいかと思ってその林道を走ることにした。そこには、ところどころ紅葉した葉っぱがあり、夕陽のあたるその風景はとてもきれいだったのでみとれてどんどん進んでいくうちに道に迷ったらしい。やはり、土地勘のないところなので、遠くにある山のかたちを見ても今どこにいるのか見当もつかなくて、そうこうしているうちに日が落ちていよいよ訳がわからなくなった。その上さらに運悪くパンクした。仕方なく、その辺の草を毟ってタイヤに詰めて走り始めたのだが、量が足りなかったのか、荷物の積みすぎのせいか、極めて不安定で危ない状態だったので走るのを諦めて、誰かが通るのを待つことにしたそうだ。しかし、いつまでたっても誰も通らなかったので、半ばやけを起こしてその場にテントを張って眠ったそうだ。しばらく眠ってから、眩しい懐中電灯の光と、「こんばんわ~、けいさつで~す」という声で起こされて、眠い目をこすりながら見ると、本当に警官が来ていたという。伸彦は、「ああこんなところにもパトロールにくるのか、おかげで助かった」と思い、事情を話して助けを求めたそうだ。警官は早速バイクを町まで引きあげることができるように手配をしてくれ、さらに、救援が来るまで一緒にいてくれるとのことだった。伸彦はいやに親切な警官だなあと思っていると、警官は、「いやなに、この先のキャンプ場にね、この間熊が出て大変だったんだよ。そいつはまだ捕まってないからねえ」と、さらりと言ったらしい。それを聞いて伸彦は全身の血がサーッと引いていったそうだ。熊というのは、その行動に習慣性があるはずだ。とすればこの辺りに現れても不思議ではないし、ひょっとすると熊にとってはお散歩コースなのかも知れない。そうとも知らずこんなところでのうのうと寝てるとは。知らぬが仏とはまさにこのことだと思っているうちに、バイク屋の車がやってきて、やっとその場から脱出できたらしい。その後、パンク修理をしてくれたバイク屋のおやじさんとすっかり意気投合して長話をしていてこんなに遅くなったそうだ。 「それなら、連絡くらいしろ!!」  話を聞いた僕は、伸彦を怒鳴りつけた。 「一体、僕や友紀がどんな気持ちで待っていたか、わかるだろ!」
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