第1章

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 僕は後悔した。  心に穴があく。とはこういうことを言うのだろう。よく、失恋した女の子のセリフとして耳にする。それが、今初めて実感できた。  僕は帰ってから、何もする気になれなかった。そのままベッドに倒れ込んで悶々としていた。心がとても重たくて、眠る気にもなれなかった。  時計を見ると、もう夜中の2時になろうとしていた。  僕は、どうせ眠れないならと、バイクで走りに行くことにした。  走ることで気分を紛らわしたかった。さっさと着替えて、バイクに跨り、いつもひまつぶしに走りに行く小戸のヨットハーバーを目指した。    ヨットハーバーは、冷たい風が吹いていた。  セイルに張るロープがマストにあたり、カランカランと、どこか寂しい音を立てていた。冷たい月が沖天にあり、その光を受けて沖合の海がキラキラと輝いていた。今日は、珍しくアベックの車も族も見あたらず、僕ひとりきりだった。  近くの自動販売機で最近入りはじめたホットの缶コーヒーを買って、堤防の突端まで歩いて行った。そこに腰をおろし、缶コーヒーを開けた。  堤防の外の海の輝きを眺めながら僕は今日のこと、中学時代のことを次々と思い出していた。そして何故か高校2年の時に付き合っていた、芳香のことまで思い出した。別れ話になった時、彼女は確か、 「あなたは子供だから、人の気持ちがわからないのよ」と言っていた。  その時は僕も頭にきて、「おまえ、何言ってんだよ、意味わかんねーよ」と言い返した。  つまりはそういうことなのか?僕は子供なのか?それじゃ、大人ってなんだ?人の気持ちがわかるのが大人なのか?じゃあ、僕の気持ちは誰がわかってくれるんだ?みんなそこそこ人の気持ちがわかる振りをしてテキトーにやっているだけじゃないのか?本当は何なんだ?それがわかるのが大人なのか?本当のことがわかって、優しいヤツが大人なのか?そんなのウソッパチじゃないのか?  僕には、もう自分の考えていることさえ、何がなんだかわからなくなった。  あれから、半年以上たった今も、僕には何もわからない。
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