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あ の 暑 い 夏 の 陽 に
第一章 少年の日
第二章 憧れの大地へ
第三章 旅するものたち
第四章 こころの風景
第五章 風の吹く丘
第六章 瀬川千賀子
第七章 風の吹く丘で
最終章 あの暑い夏の陽に
序 章
星の数ほどの若者たちが、かつてそうしたように
二十歳になったばかりの私も、ハーフクォーターのバイクに跨って、遥かな北の大地を駆け抜けた。
目を閉じると、懐かしくて美しい風景が、きらきらとした光彩をまとって甦る。
あのさわやかな風は、今も大地をつたい一面の草原をおし渡っているのだろうか。
あの抜けるような青空も、夏の日差しも、旅人を優しく見守ってくれているのだろうか。
その風景の中に、千賀子は、いた。
第一章 少年の日
その年の春。
僕、吉村貴志は高校を4年もかかってやっと卒業した。
そこそこの大学には合格したのだが、一流の大学には落ちた。「なんとなく」で、どうでもいい大学には行きたくなかったし、自分が本当は何がしたいのかをじっくり考えてみたかったから、とりあえず浪人という肩書きで、進学も就職もしなかった。僕は、女友達と遊んだり、仲間とバイクを乗り回したりして、一日一日を浪費していた。
それは、自由と放埓の日々を謳歌しているように傍目には見えるかもしれない。確かに、若さという弾けるような時間を好きなように使っているのだ。しかし、本当にそうなのか。少なくともそのことに悩むだけの理性は持ち合わせていた。先の見えない不安はとても息苦しく、憂鬱なものだ。
やりたいことがどうしても見つからない僕は、本当は、暗い淵の底でもがいているだけの少年だった。
とある日。
僕は高校時代の友人で地元の大学に進んだ北川友紀のアパートに転がり込んでひまつぶしをしていた。
友紀は現役で大学に進んでいたので、もう2年生になる。最近、親元を離れてアパート暮らしを始めた。もともと孝行息子の友紀なのだが、僕とは違って自分の道というものをしっかり考えていた。それで、もの思うところがあって一人暮らしを始めた。おかげで、そのアパートは僕らの格好のたまり場だった。
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