第1章

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 浪人生の僕には、旅費が問題となる。「勉強しろ」とうるさい親に「帰ってきたら真面目に勉強するから」と半ばけんか腰に頼み込んだ。何度も掛け合い、ようやく旅費の半分を出してもらえることになった。あとは貯金の全てを注ぎ込むつもりだ。  友紀はバイトで稼いだ貯金がそれなりにあるそうで問題はなかったうえに、「いらない」と断る友紀に、親が「旅先ではお金が頼りだから」とたくさんの餞別をくれたそうだ。  いよいよ北海道に行く夏がやってきた。  計画はこうだ。  予算と時間を節約するために、伸彦の勤めが終わる夕方5時すぎに福岡の街を出て、一晩中走り続け、翌日の夜、京都舞鶴の港から出発する小樽行きのフェリーに滑り込む。丸一日眠らずに、しかも700キロ彼方の見知らぬ土地へわずか125(僕と伸彦は125CC、友紀は250CC)のバイクで走って行こうというのだから、結構怖いもの知らずの計画だ。勤務あけに出発する伸彦は大変のはずだが、僕らはその行程の苦しさを想像するより、見知らぬ土地を走る楽しみの方が勝っていた。普段のツーリングでは、一日2~300キロくらい平気で走っていたので、単純にその倍くらいの数字にビビッてはいなかった。  三人は、集合場所である友紀のアパートを予定通りに出発した。  夕方だったので福岡の街は渋滞していた。  荷物を山のように積み上げた3台のバイクは車の間を小気味よくすり抜けながら走って行った。  信号停車の時、車の見知らぬおじさんが友紀に何やら話しかけている。どうも、僕たちの大変な荷物を見て、どこまで行くのか興味を持ったようだ。後で聞いた話では「北海道」と聞いて感心するようなあきれるような顔ではげましてくれたそうだ。 先ずふつうに考えると九州から北海道というのは、バイクで行くには、やはりあきれるくらいの距離があるし、僕ら九州の人にとって、北海道というのはイメージのはるか向こうにおぼろげながら浮かんでみえる異境の地といった感じだ。分かりやすく言うと身近に感じる場所ではないのだ。意識的なものも、物理的な距離も九州と北海道では大きな隔たりがある。だから、行ってみたいし、走り甲斐もある。  15分も走った頃、予想だにしなかった出来事に見舞われた。
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