第1章

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併走する高速道路をうらやましく思いながら、いくつかのアップダウンを越えていくと、やがて国鉄(当時はまだ民営化されていなかった)の操車場らしきところが見渡せる高台の上に出てきた。オレンジ色の照明に照らされたいくつものレールが幻想的に輝いている。そこに吸い込まれるかのように道路は下り坂。急降下といってもいいくらいの傾斜があった。僕のバイクは、なにしろ荷物を山のように積んでいるので背中から押されるような感じで、それにエンジンブレーキも期待できない2ストマシンだ。ギアを落とすと、エンジンが無駄にうなりをあげていた。 坂をくだりきりきると、そこはT字型の交差点になっていた。正面に見える標識をようく見ると、目の前の道は国道3号らしく、ここで右折すれば門司に行けるようだ。 僕は路面電車のレールを慎重に跨いで右折した。  門司駅を過ぎると、国道3号は道幅がせまくなっていく。その上を、当時、路面電車が走っていて、最も狭いところでは車道と線路がほぼ重複している。軌道敷内が車道になっているという珍しい構造で、そこには敷石が敷かれているので、豪勢な石畳の道だった。    無事に九州を脱出し、本州に上陸した僕は、いつの間にか山間部を走っていた。  時計はもう、11時くらいを指している。考えてみると福岡を出て関門海峡をわたり、もうすぐ山口に入ろうとしているのに、先を行っていると思われる二人に追いつこうと勢い込んでいたため、ここまで一度も休憩していなかった。ゆるやかな高速コーナーが連続したこともあって、やや疲れを感じてきた僕は、ここらで一休みしようと思った。  しばらく行くと適当な休憩所があった。  そこの建物の近くにバイクをつけた。エンジンを止めて降りようとした時、足がややふらついた。さらに、さっきまで生ぬるい夏の夜風の風圧に曝されていた両腕がビンビンと突っ張るような感じがした。疲れている自分をはっきりと自覚した。そして、ちょっと心細くなった。  休憩所の外灯には、多くの虫がまとわりついていた。  虫にさえ、こんなに仲間がいるのに、今僕はひとりぼっち。見渡すと、辺りは深い暗闇と静寂。人の気配すら感じられない寂しいところだ。通りすがりの車が、大きな騒音とともに僕を照らしては過ぎていった。そして再び静寂に包まれる。底抜けな寂しさが込み上げてきた。
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