第1章

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 ある日の放課後、下校しようと何気なく校舎の階段を降りていた僕は、踊り場で待ち伏せしていたワル軍団に囲まれてしまった。ワル同士の横(縦?)のつながりはすごい。よくもこんなに集まったものだ。踊り場に7人くらいはいるだろう。その他、上の階にも下の階にもどこからともなくサッと数人が現れて、見張りをしている。   めんどうくさいことになった。しかし、それまでさんざん虚勢を張っていたので、今更みっともないマネはできない。同じやられるにしても最悪だれかひとりだけに的を絞って、そいつだけでもやっつけてやる。中学まで野球をしていた僕は体格も運動神経も自信があるし、何より1対1のけんかに負けたことはない。そう思って僕は怖い顔して突っ立っていた。僕を囲んだ連中は、やや遠巻きにして様子を窺っているようだった。 やがて、その中の一人(コイツがボス猿か!)でガタイのいい体育会系の男が、 「お前、ちょっとこい」と、言ってきた。  僕はそいつの方に振り返り睨みつけたまま、ここで逃げたらやられると思った。それで僕は連中を睨みつけたまま憮然として突っ立っていた。ふとみると、囲んでいる連中も目一杯緊張しているようだ。ボス猿以外は。いや、ボス猿もわからない。みんな拳を握りしめたまま青い顔をして固まっていた。なんだかんだ言っても、こいつらは僕よりも年下なんだという気がした。僕は急にばかばかしくなった。もう相手にするのはやめようと思った。  僕は、低い、落ち着いた声で言った。 「どけ、俺は帰る」  そして、囲んでいるうちの一人を押しのけて下の階に行こうとした。押しのけられた男が、僕をひきとめようと、腕につかみかかった。僕がそいつの腕を払いのけると、その男はビクッとのけぞった。僕は睨みつけたまま全員を睥睨し、そして、さっさと階段を下りて行った。誰も追ってこなかったし、見張り役も僕の邪魔はしなかった。  僕の気迫勝ちだったのだろう。それから二度と囲まれることも呼び出しを受けることもなかった。  時には一歩も引かない姿勢を見せる事は大切だ。あの時うろたえて弱気を見せていたら、おそらくつけ込まれたのだろうと思う。しかし、僕の高校は県内トップの進学校なので、ワルといってもたかが知れている。  が、世の中には本当のワルもいる。  はたして今、目の前にいるオニイサンはどうなのか?
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