10人が本棚に入れています
本棚に追加
「キミ」
空を見上げていた俺は声に反応するように視線を戻すと、いつの間にか目の前には見ず知らずのお爺さんがいた。
「え?俺ですか?」
顔に刻まれた皺の数と真っ白な頭髪から、年齢は80代位に見える。しかし何よりも気になったのは、白いシャツにベージュのカーデガンを着ているだけで、上着を羽織っていないということだ。
…寒くないのだろうか。
と、眺めているとお爺さんが金色のレーシーなリボンのついた手の平サイズの赤い箱を差し出した。
「そうだよ。キミに渡してくれと、ある人から頼まれてね」
そう言って優しく微笑んだ顔に、亡くなった祖父の面影が重なる。
「ある人?」
「キミの大切な人だ」
…大切。
真っ先に浮かんだ顔に自分で苦笑する。そんなわけはない。と、思いながら。
最初のコメントを投稿しよう!