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それは毒々しい色をした細い肉の管を伸ばし、体から生えているうちの別の管に引っかかっている鞄から、器用に筆箱を取り出し机に置く。
「おはよう、高浜くん」
秋原さんはそれを高浜くんと呼んだ。
「よお、おはよう。高浜」
俺もならって、それを高浜と呼んだ。
「おう、おはよう」
高浜は吐息を交えながら、俺と同年代ほどの男性の声で返事をした。その声からは想像できないほど、彼の見た目は人間からかけ離れた醜悪な姿をしている。
「ねえ、高浜くんも聞いてよ――」
秋原さんは他の人に接するのと変わらない態度で、高浜に雑談をもちかけた。それに続くように、周囲の席にいる男子も彼に話しかける。
誰も高浜の姿に嫌悪する様子はない。当然だった。俺だけが、彼を彼と認識できないのである。
高浜だけではない。俺は今まで生きてきて、彼と瓜二つの姿をした存在を幾つも知っている。どれもこれも見た目はまったく変わらない。ただ他の人には判別できているらしかった。
強烈な疎外感が胸を満たし、先ほどまではあった頬の温かみがさっと冷えていった。
それから予鈴が鳴り教師が来るまで、俺は彼女たちの会話をうわの空で聞いていた。
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