そう見えた

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そう見えた

 秋になり、人々の肌を焦がしていた日差しもすっかり鳴りを潜めた。  制服も長袖に衣替えし、それでも肌寒いと感じる人がいるのか、通学路にはちらほらとカーディガンを着ている生徒の姿がある。  俺もカッターシャツ一枚では耐えられず、カーディガンを着用していた。  風が吹き付けるたびに両腕を擦り、自然と校舎へ向かう足が早まる。  広い道路の両脇を通った歩道を進んでいくと、すぐに目的地が見えてきた。  寒気とおさらばできる安堵と、いつものように学校が始まる億劫さがわき、軽く口を紡いだ。  校門を抜けて靴箱で靴を履き替える。そのまま一階の廊下を通り、教室に入って中の様子を確認するも、まだ人影はまばらだった。  教卓と向かい合うように並んだ机の列のうち、窓側から数えて二番目、その列の前から三番目の席につく。  教科書のつまった紺色の手提げ鞄をおろし、机の側面にあるフックへかける。重さで机のパイプ部分が、わずかに音を鳴らした。その音に反応したように、前の席にいる人物が首をこちらへ向ける。 「おはよう」     
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