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私が小学生の頃に生まれた噂の話をしよう。時期はまだ昭和と平成の境目で、教師による体罰を「悪いうちの子供を正してくれてありがとうございました」と感謝するような親がまだ多い時代の話である。
僕は父の都合で五年生になって小学校を転校することになった。転校先の小学校では教科書も変わり、授業の進行具合も変わり、何かと戸惑う事は多かったが何とか着いていく事が出来た。ただ一つ慣れないのは新しい教科が追加されたことだった。
「音楽」である。
僕の前にいた小学校では「音楽」と言う教科は無かった。理由は知らない。お受験に勝ち上がって入った私立の学校だった為に公立とはどこか違うところがあったのだろう。それが都落ちのように市立の普通の小学校に来た途端に「音楽」と言う授業が増えて僕は困惑するばかりであった。
音楽の授業を初めて受けるにあたって壮年の音楽教師から一枚のペラ紙を渡された。リコーダーの注文書である。注文書に書かれた店の名前を見ると隣の県にある楽器店であった。少し町中に出れば楽器店があるのに何故に態々隣の県の楽器店にまで注文するのだろうか。その意味を知るのは大人になってからである。親も「後二年しか吹かないのにどうして」と愚痴を溢していた。
音楽の授業を初めて受けたのだが、これが予想以上に面白くない。音楽を聞くこと歌うこと奏でることで感受性豊かな子供の育成に繋がるらしいが、どこがどう繋がるのだろうか。全くもって意味がわからない。音楽なんてものはやりたい奴だけ勝手にやるもので、人に強制させてやるものじゃない。と、実際に受けてみて思うのだった。
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