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遺書には「おとうさん、おかあさん、おねえちゃん、ごめんなさい」と言った旨の後に「リコーダーが吹けなくてごめんなさい」と、言った事が書かれていた。
それから程なく追悼の全校集会が開かれた後、僕たちのクラスでも緊急の学級会が開かれた。彼女に対する黙祷でもするかと思われたが、信じられない事を担任教師は言った。
「あなたたち、音楽の先生がやったことは誰にも喋らないで下さい。喋るとこの学校が大変な事になります」
いわゆる口止めである。音楽教師がやってきた事がバレれば学校側の責任は免れられない、そこで学校側は音楽教師のやった事を口止めして、そのまま時の経過を待ち事態の沈静化を図る腹心算であった。
ネックは遺書であるが「リコーダーが吹けなくてごめんなさい」としか書かれておらず、音楽教師の指導に関しては一行たりとも書かれていないため、音楽教師がやった事は児童たちが黙っている限りは誰も知る由が無い。
彼女の自殺は新聞の三面記事と地方ニュースで数秒程度取り上げられる程度の扱いであった…… 彼女の両親に真実を伝えようかと思ったがそれを知れば余計に両親は苦しみ自分を責めるだろう。それを分かっていた僕は卑怯とは分かりつつも胸の奥に仕舞っておくことにした。
僕はその事もあってか中学生になったら再び前にいた私立に戻りたいと考えるようになった。親に相談してみたら「電車通学になるけどいいね?」との事だったが二つ返事でそれを了承した。電車での通学時間一時間は中学生には厳しいとは思えたがそれよりも中学校に行ってまであの時の友人と面を突き合わせるよりはマシだと考えていた。
やはりそこでネックになるのは音楽の成績であった。何とかリコーダーは吹けるようになったものの二年の差がある皆とは実力の差があるらしく、音楽教師のお気に召すような演奏は出来なくリコーダー演奏の度に侮辱のされ通しだった。ペーパーテストも満点を取り歌も音程を合わせて歌えているのに、何故か音楽の成績は5段階評価の2であった。
私立中学の面接でも「音楽の成績が悪いようですが真面目に受けてないのですか?」と、聞かれてしまった。音楽の授業が存在しない私立中学でも気になる要素のようだ。おそらくは技能教科に対する授業態度を見ているのだろう。
そこは「音痴なもので」などと適当に誤魔化しておいた。
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