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僕の新しい家に友人が遊びに来た。そのついでとして「呪いの音楽室」の噂を確かめる為に二年間しか通ってない小学校に行くことになってしまった。
この当時は今程警備が厳しいと言うことは無く、すんなりと学校の中に入る事が出来た。
授業も終わり児童たちは皆下校し、教師たちも職員会議で職員室に籠もりだす頃、それを職員室の扉の窓から確認した僕たちは足を忍ばせながら音楽室に向かった。鍵は掛かっていなかった。五線譜の描かれた音楽室特有の黒板に合唱コンクールの曲の歌詞が書かれている事から入れ替わり立ち替わりで音楽室を使っているクラスがあって、そのうちの最後に使ったクラスが掛け忘れたのだろう。
「さて、ここでリコーダーを吹くんだったな」
友人はショルダーバッグから緑色のスケルトン柄にラメの入った如何にも玩具ですと言わんばかりのリコーダーを出した。
「100均で買ってきた」
友人は適当にリコーダーを吹いた。生まれてこのかたリコーダーに触れ合う事が無かった友人は適当にピロピロとしか吹くことが出来なかった。
「おい、先生に聴かれない程度には大人しくしてくれよ」
それからも雑音も同然の不協和音が鳴り響くが一向に何も出てこない。やはり下らない噂だったか。僕はこれ以上の長居は無用だと踵を返した。
「おい、お前なら何か曲吹けるよな? こんな適当に吹いていたんじゃリコーダーの練習じゃなくて遊んでるだけだ。なんか吹いてくれよ?」
友人は僕にリコーダーを差し出した。せめて口ぐらい拭いたらどうだと思ったが、僕とこいつはペットボトルの回し飲みを平然と出来る関係だ。唾液塗れのリコーダーではあったが些末な問題である。
「じゃ、アマリリス」
「フランス土産~ って奴だったな」
僕はアマリリスを吹ききった。久しぶりではあったが指が自然に動くところたった二年でも継続は力なりという言葉は真実のようだ。
「上手上手」と、言いながらパチパチパチと拍手をした。
所々指が押さえきれずに変な音になっていたが気づかないようだ。それでも噂の「大きい指…… 良いな」の声は聞こえてこない。こんなところでリコーダー独奏会なんてやる筋合いは無い。そもそもやりたくない。さっさと帰るとしよう。
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