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〈大きい指、良いなぁ……〉
高いながらに聞き覚えのある声だった。まだ声変わり前の友人の悪戯だろうと思い僕は友人に問いかけた。
「おい、悪戯はやめろよ」
友人は首を振って否定のゼスチャーを取る。友人じゃないとすると……
〈大きい指、欲しい。リコーダー吹けないと先生に怒られるから…… 指…… ちょうだい?〉
本当に来てしまった。友人にも聞こえているのか真っ青な顔をしながらこちらを見ている。
「お、おい…… 回避法とかあるんじゃないのか」
大体この手の話には何も被害を受けない回避法がある。大体は話を持ってきた奴が本当なり嘘なりの方法を知っているものである。僕はそれを期待した。
「し、知らねぇよ」
使えない友人である。このままだんまりを決め込み持久戦に持ち込もう。と、思った瞬間に手の甲から指に激しい痛みが走った。いつか見たようなミミズ腫れが手の甲に付く。
〈どっち? 大きい指、くれるの? くれないの?〉
僕は痛みに耐えた。手に激しい痛みが走る、こんなに痛いならもう指なんかいらないと思った僕は言ってしまった。
「いらない! でも指はあげない!」
〈羨ましいなぁ〉と、羨望の声が聞こえた瞬間に僕の指は切れた。切れたと言っても切断までには至らずに指先の第二関節から手の甲に至るまでの関節の間に深い切り傷が出来ただけであった。痛みでよくわからないが多分骨までには至って無いだろう。
手の表からダラダラと血を流しながら僕は呆然とその場に立ち尽くした。そして、出血のせいか僕は気を失った……
気を失うまでの僅かな瞬間、音楽室の隅に小さな手の甲に大量の血痕を付けた女の子の姿を見てしまった。赤い水玉模様になっていることから、切り落とした指を付けようとしたのだろうか……
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