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「ところで、君達二人は独身ですか?」
おッ! 定番の質問がやってきたぞ……
「はい、私達は独身です」
渡りに船とばかりに、社長さんが続けた。
「こんな色男が二人揃って独身とは、由々しき問題だ。どうかね? うちの娘も丁度独身です。この子は趣味人で、なかなか嫁に行かないんですよ」
「お父さん! いい加減にして下さい。それ以上言うと出て行きますよ!」
少々酔いが回ってきたのだろう。「車で来ましたから」と酒の誘いを断った自分達に、「失礼ながら、私は晩酌をさせて貰いますね」そう言うと、寿司や小鉢の総菜をあてにしながら、ビールを飲んでいる。
先程より口調が軽やかになりつつある父親を、娘が必死に窘めた。
「折角のお話ではございますが……私は、結婚こそしておりませんが、一生を共にする伴侶が既にいて、現在共に暮らしています」
背筋をピンと伸ばし、毅然とした口調で生真面目に返事をするこいつに見惚れていると……今度はこちらに白羽の矢が立った。
「では、君のほうは?」
「すみません、父は酔っているので、どうか聞き流して下さい……」
恥ずかしそうに頬を染めた娘が、必死に謝っている。気の毒だ。
「僕も同じです。実は…」
二の句を継ごうとしたところで、言葉が被さってきた。
「恐れ入りますが、実は私共は未だ社に仕事を残してきております。そろそろ、お暇させて頂いても宜しいでしょうか」
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