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「お前が余計なことを言う必要は無い」
駐車料金の支払いを済ませ、車を発進させた途端――ハンドルを握り、前方を真っ直ぐ見ながらつっけんどんに言い放った。
またその話だ。
こいつは生粋のゲイだが、僕はそうではない。
そのことを常に気にしているこいつは、僕を同性愛の道に引き摺り込んだことによって生じるであろう軋轢を、自分一人で引き受けようとするきらいがある。
「あのなー! もういい加減に……」
あれ? あの、墓地の角……
あ、信号が青に変わった――
「あッ! ほらほら、あそこ……」
急にラジオのボリュームが大きくなった。
意図的な行動だ。
うわー! こいつの顔、固まってるし……
『兵隊さん、お久し振りです』
僕は心の中で、久し振りに遭った兵隊さんに語りかけた。
彼は、あの時と寸分変わらぬ姿で、じーっと一点を見詰めて佇んでいる。
復員兵か? はたまた、戦地に散った英霊か? 煤けた黄土色の軍服に身を包む彼は、今日も茶色のぽわわわんとした靄に包まれている。
『兵隊さん。こいつは僕の夫です。そして、僕もこいつの夫になりました』
心の中で、僕は再び兵隊さんに語りかける。
僕だって、兵隊さんにだけでなく――堂々と、こいつが伴侶だという事実を、世界中の人達に言って回りたいんだぞ!
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