【一】

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【一】

 プシュッ!  「うんめー! 風呂の後の、この一杯が最高なんだよなぁ」 「俺にもくれ」  後ろからヒョイっと手が伸びてきて、自分の手からキンキンに冷えた缶ビールが離れていく。 「まだ冷蔵庫に入ってるぞ?」  そう教えてやりながら、自分の手元に戻ってきた残りのビールをグビっと飲み干した。  ここ数年の酷暑は一体何なんだ! と空に向かって文句を言ってやりたくなるくらい、夏の暑さは年々高温記録を塗り替えている。  ゲリラ豪雨? 集中豪雨? 局地的豪雨だと!? 予測のつかない気象現象は、日本各地で被害をもたらしている。  世も末なのだろうか?  終業後、何となく面倒になって近所の定食屋に寄った帰り、局地的豪雨に見舞われてしまった。バケツを引っくり返したような激しい雨の前で、小降りになるのを待ちつつも「早く帰宅しようぜ!」という合意に至り、お飾りと化した傘を、それでも無いよりはマシかと言いながら頭上に掲げ、びっしょりになって帰宅した。  一種のサバイバル状態だ。  帰宅後は、直ちに風呂場に直行し、ふたりで一緒に汗と雨で汚れた身体を洗い流した。 「今夜はスルだろ。お前どっち?」  自分達のルールでは、風呂に誘った方がその日のイニシアティブの優先権を得ることになっているのだが、今夜はイレギュラーだし――念のために訊いてみた。すると、「お前の好きにしろ!」照れ屋で優しいあいつは、ぶっきらぼうにそう言い放つ。 「じゃ、遠慮なく僕からで!」  クスクス笑いながらそう答えたところ、「先ずは洗濯物を干すぞ」と、そっけなく言われた。勿論、先程の答えは「イエス」に決まってる。
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