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こんな蒸し暑い晩だった――
僕の中学入学を機に、せっせと働きまくっていた母親はマンションを購入した。
祖父を苦手とする様子を憂慮した祖母からの進言に依って、キリの良いところでの転居を決めたようだ。
私立の中学校に進学するという大義名分を翳し、僕達親子は祖父母の家から離れていた。
あの晩は、自室のエアコンを適温でかけていたのにもかかわらず、何となく寝苦しかった。
そして、やっとうとうとし始めた頃……
「そうそう! 今おまえが僕の髪をクシャクシャしてるだろ? まさにそんな感じだ」
「なんだって?」
慌てて僕の頭から手を離し、周囲をキョロキョロ見回し始めた。
こいつ、もしかして……?
まあいいか、後でフォローしよう。
続けるぞ?
「いま現在の話じゃない。僕が高校の頃の話だ」
兄弟のいない僕は、当然一人で寝ていた。
その晩も、いわずもがなだ。
やっと眠りについた途端――誰かが自分の髪を優しく撫で始めたのだ。『いい子いい子』と幼子にするように――と、表現した方が適切かもしれない。
その時の自分は、『折角眠れそうなのに、邪魔すんなー!』と、何度もその手を振り払ったのだが、それでも執拗に撫で続けられてしまい、少々うんざりしていた。
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