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【序章】
〇〇〇●
あの日。
僕は、東京の空を揺蕩うオーロラを見ていた。
それは、うねうねとした曲線を描く光のカーテンのように見えた。音もなく頭上に迫り、自分を含めたその周辺にある全てを飲み込んでしまうのではないかと思われるほど強大で、子供ながらに畏怖の念に打たれた。
その圧倒的な自然の驚異の真下では、誰もがアリンコよりちっぽけな傍観者と化していた。
空一杯に広がる幻想的な光景に見惚れた僕は、しばしのあいだ息をすることを忘れてしまっていたのだろう。我に返って意識が浮上した時、全力疾走した後のような胸苦しさを感じ、はあはあと荒い呼吸を繰り返していた。
夕暮れ時。
「夕食の時間」だからと帰宅を促された近所の子供達は、名残惜しそうに三々五々帰宅した。『自分もそろそろ呼ばれてしまうのだろうか』何となく浮かない気持ちでそわそわしながら……もう少し遊んでいたいような、一人の時間を引き延ばしたいような、そんな心持ちで空き地の中央にひとり佇んでいた時の出来事だった。
その空き地は、当時住んでいた祖父母の家の裏にあり、生垣のツンツンした葉っぱの隙間からは、真っ赤な、まるでクリスマスツリーの先っちょについているベルみたいな、プクプクの赤い実がポツポツと見え隠れしていた。
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