▽エピソード・ゼロ▽

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▽エピソード・ゼロ▽

不動 明(フドウ アキラ)。当年とって二十四歳年男、とはボクのこと。 通勤電車の中でパズルを解くのが趣味である。 多くの若者はスマートフォンでゲームをしたり、SNSに興じたりしているが、ボクはそんなことに興味がない。漢字や数字のパズルを解いていくのが格段に面白いのである。 ある秋の頃、そろそろ朝晩の気温が涼しくなり始めた十月の朝、この日も電車の中で数字パズルと戯れていた。そんなとき、不意に後ろから肩を叩かれた。 「おはよう。」 親友の秀一だった。 彼の名前はヒデカズと読むのだが、面倒な輩はみんなシュウイチと呼んでおり、彼も面倒臭いのか、その呼び方を受け止めていた。 ボクは古くからの付き合いなので、彼のことは本名を略して『ヒデ』と呼んでいる。 「ああ、おはよう。」 ヒデの表情はニタニタした顔で、何か含みがありそうだ。 「なあ、おまいさん最近ずっとパズルと遊んでるけど、そろそろ女のことも興味持った方がいいんじゃない?」 「大きなお世話だよ。それよりもなんかあったのかい?」 何かを自慢したげな顔をしていたので、こちらから水をかけてみた。 「おうよ。昨日、声をかけた女の子が今夜も会ってくれるっていうもんだから、おまいさんも一緒にどうかと思ってね。」 彼がボクをそういった遊興に誘うには理由がある。 ボクはこの年になるまで、あまり多くの恋愛を経験してこなかった。経験が全くないわけではないけれど、大学時代に付き合った彼女との終わり方が悲惨だったため、それ以降、ボクの恋愛遍歴は散々なものである。 恋人が欲しくないわけじゃない。欲しいに決まっているのだが、今のボクは恋愛に対して非常に消極的になっていた。なぜなら、当時の彼女から付き合い始めてたったの三ヶ月で見限られたという悲惨な過去があるからである。 「あなたは優しいけど、つまんない。」 そう言い残して、新たな彼氏の元へ去って行ったのだ。似たようなことが過去にもあった。初めて付き合った高校時代の彼女のときも同じような振られ方だった。 つまりのところボクは女の子不審になっていたのである。 そんな経緯を知っているヒデはボクのことを思って、色々と画策してくれるのだが、今のボクにとってはありがた迷惑ともいえる親切だった。 そういうヒデなんかは、あっけらかんとしたもので、女の子からの評判もよく、何度も彼女を取り替えていた。
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