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「きっと大丈夫だよ。ミサちゃんしっかり者だから。」
「アッくんは大学でどんなお勉強してたの?」
「んー、なんだっけかな。羊の餌の消化実験をやったのだけは覚えてるけど、あとは体育館で遊んでたかな。今思えばもうちょっとミサちゃんみたいに真面目に勉強しておけばよかったと後悔してるよ。」
「私だってそんなに真面目に勉強するタイプじゃないよ。だから今焦ってるの。」
「ははは、それはそうかもね。」
和やかな時間はあっという間に過ぎるものである。
「そろそろ行かなきゃ。今日は早めにおいでって言われてるから。」
「なんか社長からプレゼントがもらえるんじゃない?」
「うふふ、期待しておこうっと。」
陽気な笑顔で振る舞い、静かにスッと席を立つ。
ボクは彼女の手を取り出口へとエスコートする。
「ごちそうさま。」
ニッコリ微笑む顔が見られるなら、毎日だってご馳走したい。そんな気持ちなんだけど、現実はそうはさせてくれない。
店を出ると『ピンクシャドウ』は目と鼻の先。
ボクは一つ手前の角まで一緒に歩き、そして彼女を送り出す。
「あとでね。待ってる。」
「必ず行くよ。十一時半ね。」
ラストデーのラストタイムへのカウントダウンが始まった。ここからがボクにとっての本格的なショータイムの始まりである。
彼女の背中が店の中へと消えるまで見送ったボクは、踵を返して帰宅の道を急ぐ。
慌てる必要は無いのだが、あてもなくブラブラする理由もなかった。
ところがである。
運の悪いことに商店街の中でヒデに見つけられてしまった。
「おう、アキラ先生じゃんか。もしかしたらと思ったけど、今から行くのか?」
よく見るとヒデの隣にはテルがいるじゃないか。
「今日はいるのか?あの子。」
テルが店の方向を覗くように体を前に乗り出したとき、ヒデがそれを遮った。
「もうすぐ辞めるんだよな。確か今日じゃなかったっけ?今はヘルプ回りしかしてないはずだから、行っても会えるとは限らんぜ。」
「いいさ。折角来たんだから、オレはこの間の子と遊ぶから。もしかしたら会えるかも知れないじゃん。そしたらちゃんと挨拶できるし。アキラをよろしくって言えるじゃん。」
「オレも何回か行ったけど、一度も会えないぜ。不思議なぐらい。横を通ったりはしてるんだけど、オレのシートにはヘルプに来ない。なんでだろう。」
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