▽エピソードその十▽

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これは後で聞いた話だけど、ヒデはボクの友人であることがカレンさんから店へと伝わっているので、ミウがヒデのシートへ行かないように、店側がちゃんとコントロールしていたのだった。 ところが、テルのお気に入りのお嬢さんは、そこまで込み入った事情を知らない。従ってタイミングが合えばミウがヘルプに行くことも可能性はあったのだが、ヒデが新しく開拓したという別の店に行くと言っていたので、今回は二人してそちらへ向かうようだった。 これで彼らが店でミウに会うことはなくなった・・・はずだった。 そしてボクは彼女を見送りに来ただけだと言って、帰宅することを彼らに宣言する。ラストタイムに合わせて来るなどと言った先には、きっと野次馬根性丸出しの二人がついてくるに違いないと思ったからだ。 ヒデはミウを指名できない女の子となっているのを知っているため、ボクも指名できないものと思っているようだし、ボクが他の女の子を指名してまで『ピンクシャドウ』に行くはずもないことを理解しているので、それ以上のことは聞かなかった。 「それはそうと折角会ったんだから飲みに行こうぜ。」 ヒデもテルもニヤニヤした顔で熱心に誘うのだが、どうせボクの話題を肴にしたいだけなのが明らかなので、強引にその場を立ち去ることにする。 「明日の準備があるから今日は帰るよ。」 まるきりウソというわけでもない。十一時半に来るとはいえ、帰るのは日付変更線を超えるのだから、ボクにとっては今宵の用事は明日の用事でもある。 「せいぜい遅かりし青春を謳歌しな。明日はデートか?その話も次の機会には聞かせてもらうからな。覚悟しとけよ。」 ヒデはそう言って渋々ボクを解放してくれた。 しかし、結果的に二人はヒデの開拓した店のあとに『ピンクシャドウ』へ行くことになったのである。そしてテルはミウに会うことになるのだった。 彼らと別れて一旦帰宅したボクは、少し仮眠をとることにした。無理に起きていて、肝心の時間に居眠りしてしまっては元も子もなくなるからである。 目覚ましを十時にセットして、電気を消してベッドへ潜り込んだ。 今宵のラストタイムを想像しながら。
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