▽エピソードその十一▽

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▽エピソードその十一▽

アラームは十時きっかりに、その時間をボクに伝えてくれた。 お陰でボクはゆっくりと支度ができる。 もう一度シャワーに入り、身だしなみを整えて、お出かけ用の服に着替える。たいして洒落た服を持ち合わせていないところが淋しいところだが、記念すべきラストナイトなので、パリッとしたシャツにジャケットを羽織ってみる。 ディナーが早い時間だったためか、やや小腹が空いている。それは買い置きの春雨スープで何とか凌ごう。 あとはクルマのキーを握り締めるだけである。 ガソリンは満タンに入っている。もしかしたら、彼女を送って帰れるかも知れないと思ったからだ。彼女の自宅がどこにあるか知らないが、満タンに入っていれば、北関東辺りまでは往復できる。 そんな妄想を描きながら部屋を出て、クルマに乗り込むのである。 プレゼントが乗っているのを確認し、エンジンキーを回す。 ブルルンと音を立てたクルマはギアがドライブレンジに入った途端、勢いよく走り出す。いざ新宿へ。 軽快に走るクルマは、土曜日とはいえ人だかりが減った街並みを滑るようにすり抜けていく。スピードは控えめに。こんな夜におまわりさんのお世話になるのはゴメンだ。 街では飲み会からの帰り支度のクルマが多い。客を乗せたタクシーが割増料金の表示をこれ見よがしに走っている。ボクが向かう方向は逆向きなので、比較的クルマの流れもスムーズだ。 『ピンクシャドウ』の近くにあるコインパーキングも、そろそろ空車マークがあちこちに目立ってきた。さすがに今時分は飲酒運転も減り、この時期にパーキングが満車なところは少ない。割と店に近いパーキングが空いていたので、すんなりとクルマを入れた。 時計を見ると十一時十五分。予定の時間にはまだ少し余裕がある。時間つぶしにコンビニに寄ってみよう。ジャケットの上にオーバーを羽織ってからクルマを出た。もちろんプレゼントを抱えたままである。 最終電車に間がある人たちが、ゆったりとした流れを作っていた。間に合いそうにない人の流れは速く、人と人の間をすり抜けるように駆け足で駅へと向かっていた。 コンビニに入ると、何人かの客が暇をもてあますように本棚の前に並んでいた。ボクもその仲間入りを果たすと、一冊の本を手にとって眺めるフリをする。
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