▽エピソードその十一▽

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「いつか思い知らせてやる。」 「顔が笑ってるよ。」 「ふふふ。好きだよ。」 ボクたちの戯れは幼子のママゴトのように見えるかもしれない。しかし、それで満足しているのだからいいではないか。 「あっ。」 「どうしたの?」 「思い出した。」 そう言ってミウは自分が持っていたバッグから小袋を取り出した。 「今日が最後だからね、会ったお客さんみんなに渡してたの。これが最後の一つ。」 小袋を開けてみると中にはチョコレートがかかったカップケーキが入っていた。 「これね、近所のパン屋さんで売ってる私が一番好きなケーキなの。美味しいから食べてね。今度は一緒に買いに行こうね。」 「ありがと。明日のモーニングに食べるよ。」 「アッくんにあげたのだけは、ちょっとだけ他のとは違うのよ。」 「どう違うの?」 「うふふ、考えておいてね。次に会うときまでの宿題よ。」 「面白いねえ。ボクはそういうの嫌いじゃないよ。」 「カンニングはダメよ。」 「ん?なんのこと?」 「来たわよ、アッくんのお友だち。アキホさんのお客さんだった。」 アキホさんはこの店の一番人気。だからボクは会ったことはないのだが、彼女の指名ならヘルプが入れ替わり立ち代りとなっただろうことが容易に想像できた。特に金曜日の夜なんて、ヘルプの女の子についてる時間の方が長いかもしれない。 「キミがアッくんの彼女かって言われてびっくりした。」 「アキホさんの客っていうことはテルだな。あいつにもケーキをあげたってこと?」 「うん。」 「違う店に行くって言ってたから安心してたのに。その後で来たのかな。」 「もう一人いたらしいけど、その人のところへは行かなかったわ。アキホさんのお客さんのところもヘルプに行ったのは一度だけ。後で店長にお願いして別のところへ回してもらったから。やっぱり気まずいもの。」 「なにか嫌なこと言われた?」 「ううん。大丈夫。でもアッくんのどこがいいのとか、自分じゃダメかとか言われたけど、触ってきたりとかは無かったよ。」 「ごめんね、ボクのせいで嫌な思いをさせたね。」 「アッくんが悪いわけじゃない。謝らなくても大丈夫。それにアッくんをよろしくって言ってたし。」 「で?どうよろしくしてくれる?」 「今は何もしてあげられない。」
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