▽エピソードその十二▽

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▽エピソードその十二▽

ミウの卒業式が明けて翌朝、ボクはパソコンの前で『ピンクシャドウ』のホームページを見ていた。 数時間しか寝ていなかったが、割と早めに目が覚めたボクは眠気覚ましのジョギングとシャワー後のモーニングを済ませて、一息ついたところだった。 ホームページでは昨夜のうちに書いたであろう、ミウのブログが投稿されていた。 「今日で卒業です。今までありがとう。」 たった一文、それだけが書かれていた。もちろん絵文字のハートマークなんかは入っていたものの、シンプルな一言に彼女の性格が表れているようでもあった。 そして彼女はもう店にはいない。 これからはボクが個人的に応援することになるのだ。そんなことを思いながら、他の女の子のブログを流し読みしていた。 すると手元のケータイがブルブルと震えだす。ヒデからの電話だ。 「おはよー。起きてる?テルから聴いたぜ。すげえ可愛いらしいじゃんか。しかも、ちゃんとヘルプだけをこなしていたようだし。おっぱいはおろか、腰や足さえも触らせてもらえなかったって嘆いてたぜ。堅物でいい子じゃねえか。」 「ちゃんとしてる普通の女の子だって言っただろ。」 「結局昨日は行かなかったのか?最後の日なのに。結構遅くまで粘ってたんだけどな、おまいさんが来ないかと思ってさ。」 「行ったよ。終電が終わる頃に。」 「なんだって?そうかクルマか。そういう手があったな。アキラだったら飲まずに会いに行くよな。オレたちには絶対に無い選択肢だ。で?今日はこれからデートか?」 「彼女は近々試験を受けなきゃいけないんだ。邪魔しちゃダメだろ。それまではデートもお預けさ。」 「そんなのにも平気なんだよな、おまいさんは。なら、今夜は飲みにいかねえか、『ロッキー』で待ってるぜ。六時な。」 そこまで言って一方的に電話を切ってしまった。ボクが行くとも行かないとも返事をする前に。それがいつもの彼の作戦であることも承知していた。 簡単に冷凍食品のパスタでランチを済ませたボクは、お腹の膨らみとともに瞼が重くなってきた。あまり寝ていないのだから眠くなるのは当然のことである。 昼寝も軽くこなして、次に目を覚ますとすでに夕方である。サロンに行って髪を整え、もう一度ジョギングした後にシャワーで汗を流した。 唯一つ、『ピンクシャドウ』に行くわけではないので、髭をあたることはしなかった。
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