▽エピソードその十二▽

5/5
前へ
/130ページ
次へ
どこにでもいる普通の出来たてカップルと同じようなやり取りだったと思う。 素直な気持ちで彼女との恋に向き合えていた。 そして迎える金曜日の夜。 月は赤々と色づいたように見えていた。昂る気持ちが自覚できていたのだろうか、舞台の本番を翌日に迎えた役者のような気持ちだったかもしれない。ボクは全ての準備を終えて、彼女からのおやすみコールを待っていた。 片付けも入浴もメールの確認もすべてが終わっている。後はベッドの中で彼女からのメールを待つだけだった。 最悪の事態も想像していた。 ―明日、急にいけなくなった。ゴメンネ。― そんなメールが入る事だってありうると覚悟していた。 しかしこの夜、彼女から来たメールは明日の確認事項のメールだった。 ―アッくん、明日は十時ごろに家を出る予定です。また電話します。おやすみ。― ボクはこのメールをもらって、安心して夢の彼方へ陥ることができるのだ。頃合よく、西新宿の定食屋で飲んだ晩酌のビールが効果を現し始めた。 そしてボクは眠くなっていく。この日の達成感とともに。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加