▽エピソードその十三▽

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なんとなくテレビは見ていたが、今朝のボクにとっては、単に画面が移り変わりながら、音が流れているだけに等しかった。コメンテーターやアナウンサーが喋っている内容などは、まるで頭に入ってこなかった。しかし、何だかあの店の近くやミサの住んでいる付近で起きている事件であることは何となく気になったけど・・・。 しかし、それよりも時計の針音の方がボクの神経を鋭敏にさせていた。 そして九時半を少し回った頃、ミサから電話が入る。 「今から電車に乗るから。二十分後ぐらい?お迎えお願いね。アッくんち、タマネギってある?重いから買わなかったの。」 「うん、あるよ。玉子もニンジンもミニトマトだってあるよ。ジャガイモは無いけど。」 「ジャガイモは無くても大丈夫よ。」 それからの二十分の長いことったらなかった。 ボクにとってはまるで三時間ぐらいに思えるほど長く感じるのだ。 ―――――たったの十分なのに。 それが部屋の中で待つ時間なのだ。十分もすれば駅へ迎えに出ればよいのである。 さらには駅までたった五分の道のりを行くのに、ああでもない、こうでもないと着替えをする。お迎え時のコーディネートまでは考えていなかった。 ざっと無難な服装に着替え、いつもの上着を羽織る。ただ、上着に金色の長い髪の毛のような糸くずが付いていたのは気になったが・・・・・。 「髪の毛?まさかね。ミサに見つかる前でよかった。勘違いされても困るしな。」 埃を払うように、金色の糸くずを振り払い、それでも程よく体裁を整えると、コタツの電源だけオフにして部屋を出て行く。 先に駅に着いたのは、もちろんボクだ。 彼女が乗っているであろう電車が到着するまで、あと三分、二分、一分。 やがて電車がホームへと滑り込んできた。心臓がドキドキバクバク音を立てている。 しばらくして改札口に現れるミサ。そしてピッタリと合う目線。 「おはよう。よく来たね、待ってたよ。」 「おはよう。ちょっと緊張してるかな。」 彼女の手にはどこで買ってきたのか、買い物袋がぶら下がっている。 「その荷物、ボクが持つよ。その代わり手をつないでもいい?」 「うふふ。うん。」 少しはにかみながら、ボクが差し出した手を受け止めてくれる。その手をぎゅっと握って、彼女の体温を感じながら、スッとボクの上着のポケットに差し入れた。 「こっちの方があったかいでしょ。」 「うん。」
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