▽エピソードその十三▽

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ミサはそのままボクの腕に寄り添うように頬をあてた。 とっても幸せな時間だと感じる。 ミウではなくミサとして彼女を迎え入れて最初に歩く道のり。この時をどれほど待っていたことか。 自分の部屋の前に着いたとき、なぜだか妙な緊張感が胸元を走る。 彼女がそっとボクの顔を見上げた。 「大丈夫。でもちょっと緊張する。」 「ボクもだよ。」 そしてドアを開け、玄関に入るやいなやミサをグッと抱きしめた。彼女もボクの背中に腕を回して応戦してくれる。 「キスしてもいい?」 「うん。」 ボクは待ちきれなかった。ミサの唇を、匂いを、やわらかな感触を。一分一秒でも早く思い出したかった。 ほんの数秒だったが、これでボクの衝動は一旦収まる。 「会いたかった。」 彼女から切り出した言葉だった。ボクが待ち望んでいた言葉だった。ボクはもう一度ミサを抱きしめてキスをした。 唇が離れると、彼女から次の言葉が放たれる。 「ずっとここで、こうしてるの?」 「確かに。あんまり綺麗じゃないかもしれないけど、中へお入り下さい。」 ミサはリビングの入り口に立ち止まり、あたりを見渡すように部屋中を凝視していた。 そしてコタツを見つけると、一目散に潜り込む。 「お茶、淹れるね。」 「アッくん気が利くぅ。」 お茶と言いながら用意していたのはダージリンである。あっという間に部屋中に広がる紅茶の匂い。 「紅茶ね。いい香り。」 温めてあったカップに注いでミサの前に置いた。 「お待ちどうさま。こちら、ダージリンでございます。」 「うふふ。喫茶店みたい。」 ボクはミサの隣の辺に座り、まずは無事に試験が終わったことをねぎらった。 「やっと終わったね、試験。できたでしょ、ミサちゃんがんばってたから。」 「うん、きっと大丈夫。それよりも今日のランチの方が緊張するかも。今日はね、ミートグラタンを作ってあげる。」 「そんな高度なものができるんだ。楽しみだなあ。」 「ちょっとだけ休憩させてね。」 そう言って両手をコタツの中に入れた。 「もっとそばに行ってもいい?」 やや遠慮がちに聞いたつもりだったが、彼女は黙ってすぐ隣のスペースを空けてくれる。 ボクはぴったりと体がくっつくほど、狭いスペースに無理やり押し入り、彼女の全てを感じ取ろうとしていた。 ちょうど真後ろにはソファーがあり、いい背もたれになっている。ボクは彼女の肩に腕を回して抱きしめる。
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