▽エピソードその十三▽

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「ミサちゃんがボクの部屋にいるなんて、なんだか夢みたいだ。」 「夢かもよ。」 「じゃあ、覚めないで欲しいな。」 ボクは再び唇を求めた。ミサはそっと目を閉じてボクを受け入れてくれる。 唇が離れると、ボクの鼻腔は自然と彼女の首筋を探索していた。間違いない、ミサの匂いだ。何ともいえない甘くやわらかな芳香がボクを翻弄する。 しかし、ボクはそれ以上のことをすぐには望まなかった。我が牙城とはいえ、自身が無秩序な狼になることを好まなかったからである。これはボクの性格上のことかもしれない。 一息ついたころ、ミサが動き始める。 「さあ、そろそろランチの用意をしなきゃ。今日はアッくんにランチを食べさせてあげるのが私のメインイベントなんだから。」 そう言って持ってきたバッグからエプロンを取り出すと、トレーナーの上からさらりと羽織る。エプロン姿もとっても可愛い。 「アッくんはそこで待っててね。ちょっと時間がかかるかもしれないけど。」 そしてさらに買い物袋からひき肉とマカロニと缶詰を取り出す。 「ご要望のタマネギはそこにあるでしょ。」 「うん。」 そして彼女はコトコトと音を立てながらタマネギを刻んでいく。 やがてフライパンに火が入り具材を炒めだす。徐々にいい匂いがキッチンを占領していく。 ボクがその様子を覗きに行くと、 「ダメよ途中で覗いちゃ。恥ずかしいから。」 ふと彼女の手元を見ると、デミグラスやトマトの缶詰のほかにいくつかの小瓶が見えた。 「これなあに?」 ボクが手にとって眺めていると、 「香辛料よ。ミサが独自でブレンドしたの。」 ふたを開けて匂いを嗅ぐとクミンのいい香りが鼻を刺激する。 「さ、向こうでお利口さんにしててね。」 彼女はボクの頭をなでなでして嗜めるように言った。 「はーい。」 ボクもそれに合わせるように返事をしてコタツへと戻る。 やがてソースとチーズの焼けるような香ばしい匂いが漂ってくると、ボクは居ても立ってもいられなくなり、犬が飼い主に駆け寄るかのようにミサの方へ駆け出した。 「いい匂いだなあ。」 「出来たよ。」 ボクはあらかじめ用意しておいたランチョンマットにフォークとワイングラスを置いた。さらには缶だけど、おしゃれなカクテルも用意してあるのだ。 「お昼から飲むの?」 「せっかくの記念だから軽くね。乾杯だけ。」
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