▽エピソードその三▽

3/10
前へ
/130ページ
次へ
そしてヒデは宣言どおりに『ピンクシャドウ』へ向かう。ボクも予告どおりこの店に残る。そんなそれぞれの場面に移るころ、少し手の空いたマスターがボクのところへ寄って来た。 「さっきのはお友達ですか?」 「はいそうです。」 「たぶんキャバクラの女の子の話をしてたんですよね。」 「はいそうです。」 「たぶん、下心があったら絶対にダメだと思いますよ。」 「ボクもそう思います。」 「あの手の女の子って、意外と身持ちは堅いですからね。」 「そうなんですか。まあ、彼らには彼らの遊び方があるようです。ボクにはついていけませんけどね。」 「それよりも今日はこんな魚が入ってるんですが、焼きますか?」 マスターは冷蔵庫から立派な金目鯛を取り出した。 「切り身でいただけるなら焼いてください。」 「はいよ。」 ボクはヒデを送り出してからもう少しの時間、この店で過ごした。 ミウをこの店に連れてくることを想像しながら。 そして週末の金曜日がやってくる。 この日は店にミウが出勤する曜日でもある。 ところが、この日は暦上の三連休。ボクは親戚の祝い事があって青森まで行かねばならない。父が東北の出身で、その親戚連中が青森や岩手に何軒か残っている。今回は叔父の息子、つまりは従兄弟の結婚式なのである。仲の良い従兄弟の結婚式だから、行かない訳にはいかない。残念ながら店の訪問は、週明けの月曜日になりそうだ。 しかし、考え様によってはその方が良いかもしれない。金曜日はあちらこちらで仕事帰りのサラリーマンが宴会に花を咲かせ、その二次会もしくは三次会でそういった店に立ち寄る曜日でもある。店の方でもちゃんとわかっていて、スタンバイしている女の子の数もウイークデーより充実している。 逆に月曜日なら客数も少なく、よりまったりとした時間が楽しめるかもしれない。そんなことを考えながら北行きの新幹線に乗り込む金曜日だった。 青森では心から従兄弟の門出を祝うと同時に、従兄弟からはボクの結婚への催促を迫られた。ボクが結婚することで彼が得るメリットなど特に無いはずなのだが、自分が幸せになるだろうお裾分けの気持ちを与えたかったのかもね。ある意味大きなお世話ではあるが、ありがたく気持ちだけはもらってきた。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加