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「ボクが彼女の良い人になっても、きっと彼女は幸せになれないような気がします。みんなから頼りないって言われてますから。彼女が好きなことはホントです。でも、彼女がボクのことを好きになることなんて、きっと無いですよ。」
「何をバカなこと言ってんのよ。もっと自信を持ちなさい。どこでどうなるかわからないんだから。」
「・・・・・そうですね。」
ミカさんは自信なさげなボクを応援してくれる言葉を投げかけるものの、決してその言葉は本意ではない。お店の女の子が、客と女の子との橋渡しをするはずもないのだから。
ボクはそんな風になればいいなと思いながら、薄暗い天井を見つめていた。
「そんなに好きなら、ずっと居てあげればいいのに。」
「でもね。ボクの資金にも限界があります。」
「じゃあね、長く居なくてもいいから、回数を通ってあげてね。」
「えっ、どうしてですか?」
「そういうポイントがあるのよ。お店のシステムで。その方が彼女のためよ。」
「そうなんですか。いいことを教えてもらいました。ありがとうございます。」
ボクは素直にミカさんにお礼を述べた。
そのタイミングで場内コールがかかった。ミカさんがボクのシートを離れ、ミウが戻ってくる。そんなアナウンスだった。
ボクもその頃はアナウンスの声もよく耳に入る様になっており、どんなワードがどんな合図かも理解できる様になっていた。
「ただいまあ。ゴメンネ遅くなっちゃって。」
「指名のお客さんが来たの?」
「ウン。でも私はアッくんの方が好き。」
このセリフをそのまま信用してはいけない。この「好き」はもちろん営業用である。彼女が個人的にボクを好きになる筈もない。そう言い聞かせて言葉を飲み込む。
「ありがとう。でもこれでボクの時間は半分になるわけだね。」
そう言うと彼女は何も言わず、ボクに唇を合わせてきた。
ボクは彼女の体を抱きしめる。そして微妙な感情に胸が痛むのである。
―――本当は誰の手にも触れさせたくない。―――
だけど、今の自分にはそんなことを言える権利は無い。ただ、今の時間だけを自分の時間として納得するしかないのだ。
ボクたちはあまり多くの言葉もなく、弾むような会話も少なく、ただ唇を合わせただけの時間を過ごす。
そして数分おきにもう一人の指名客とボクのシートとの間を往来するのである。
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